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 ※この記事には、性暴力の被害と自殺に関する具体的な記述が含まれています。

性教育は、女性がいかにして望まぬ妊娠、性感染症、性暴力から自分の身を守るかを学ぶ非常に重要な教育課程だ。しかし、北朝鮮ではこのような教育はほとんど実施されていない。

性暴力被害を恥ずかしいことであるとのみ認識し、誰にも相談できず隠し通す。被害に遭った女性の方が責められるからだ。朝鮮人民軍(北朝鮮軍)第4軍団軍医所の幹部診療科の担当看護師であった21歳の女性兵士オクチュ(カナ)もその一人だった。

デイリーNKの現地情報筋が、ある事件の顛末を伝えた。

2021年8月のある夏の夜、彼女は、衛生袋を担ぎ、師団司令部の本庁舎に向かった。不眠を訴える政治部長から2日に1回のペースで呼び出されていたのだ。そして、注射を打つ数分間、50代の政治部長に体をあちこちを触られ続けた。上官の命令に背くこともできず、ただただ羞恥心に耐える日々が2年間も続いた。

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彼女は決心していた。もはや我慢も限界に達し、政治部長を殺して自分も死のうと。

平安南道(ピョンアンナムド)出身のオクチュは、幼くして父親をなくし、母親に女手一つで育てられた。看護師学校を卒業し、1年遅れて軍に入隊した彼女は、50倍の競争率を勝ち抜き、師団所属の軍医所の看護師として配属された。

ただ、彼女はポストを勝ち取るためにワイロを積んだわけではない。後でわかったのは、新兵訓練所を指導していた政治部長が、身長170センチで容姿に優れた彼女を、「自分の好みだ」として担当看護師として配属させるよう指示したのだった。

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(参考記事:狙われる女性新兵…北朝鮮軍「終わらぬ鬼畜行為」で見せしめ

2年間続いた悪夢のような日々を思い出しつつ、彼女は政治部長の部屋に入り、いつものように熱い五明子(オミジャ)茶を差し出した。それを半分口にして、オフィスのソファに横になった政治部長に、いつもの注射をしたところ、今にでも眠りに落ちそうな様子だった。

政治部長がウトウトしている隙に、彼女は薄いピンク色の液体の入ったアンプルを取り出し、湯呑に注いだ。目を覚ました政治部長は、残りの五明子茶を飲み干した。

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それを見たオクチュは、オフィスを飛び出し、庁舎の裏山に向かった。そして、木の下に座り込み、アンプル4本分の液体を水に入れて飲み干した。翌朝、彼女は変わり果てた姿となって発見された。この液体、実はネズミ捕り用の毒薬だったのだ。

一方の政治部長は、夜のうちに倒れているところを巡回中の当直兵士に発見された。緊急の胃洗浄を受け、10日後には意識を回復した。

自らの殺害を企てたのがオクチュであったことを知った彼は、師団軍医所の幹部診療科の担当看護師全員を、下級部隊に異動させる特別指示を出した。そして、オクチュの文件(個人情報ファイル)には、「朝鮮労働党に入党させてほしいとの要求を断られたことに恨みを抱き、政治部長を毒殺しようとした危険分子」だと書き込まれた。

ちなみに北朝鮮で自殺は「最高指導者から授かり、革命に捧げるべき命を勝手に投げ捨てた裏切り」と考えられ、遺族にも累が及ぶほどの問題行動とされている。おそらく遺された母も、娘を失った悲しみを誰にも言えず、世間の白い目に耐えながら暮らしていたことだろう。

下級部隊に異動させられた元同僚たちは、誰ひとりとして事件の真相について語ることはなかった。しかし、やがて兵役を満了して除隊した元同僚のひとりが、オクチュの母親のもとを訪れ、事件の一部始終を語った。それを聞いた彼女は、すぐさま軍総政治局と軍団の政治部を訪れ、泣き叫びながら、一人娘を奪われた悲しみを訴えた。しかし、何の答えも得られなかった。

北朝鮮でも近年、こうしたケースで軍当局が捜査を行い、性暴力の加害者が罰せられる事例も伝えられている。しかし、社会的になんの力もない家庭の訴えでは、当局を動かすことはできないのかもしれない。

オクチュと同じように、性暴力の犠牲になっている北朝鮮女性は、数多く存在するはずだ。しかし、海外にまで漏れ伝わるのは氷山の一角。いや、北朝鮮国内でも広く伝わることはないだろう。被害者やその家族が性暴力被害を訴えたところで、返ってくるのは、彼女らをさらに苦しめる言葉ばかりだからだ。

(参考記事:北朝鮮「18歳女性兵士」を襲った鬼畜行為の多重被害

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