配給が途絶え、食べ物がなくなり、金正日氏に対する不信は深まった。「国防費の1割を人民の生活に回せば、こんな貧しい暮らしをしなくても済むはずだ」と不平不満を公の場で吐き出すほどになった。
ポケットに手を入れ平然とした表情で金正日氏の霊柩車を眺める人々の眼中に、金正日氏はいなかった。ただ、これから迫り来る金正恩体制への漠然とした不安感とそれによる不透明な未来に対する疑念があっただけだ。
告別式を最後に独裁者・金正日は歴史の裏に消え去った。首領独裁のバトンを引き継いだ金正恩氏が、金正日氏の遺産を受け継ぐと公式宣言したが、これは金正日一家に対する「不信の時代」の延長を宣言しただけである。人々の姿から迫り来る未来への不安が垣間見えた。