金正恩の“エリート市民”が生唾を飲む「見せしめ動画」の中身

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北朝鮮は批判社会だ。職場に勤める人は毎週土曜日の午後に生活総和(総括)に参加させられ、自己批判を行う。「私は首領様(故金日成主席)のマルスム(お言葉)にしたがって行動すべきだったが、できなかった」という具合だ。それに対して、別の参加者が批判する。このような総和は毎週、毎月、毎四半期、毎年行われる。

この拡大版というべきものが「思想闘争」――いわゆる吊し上げだ。

地域や職場の会館などに多くの人を集め、対象者に自己批判させた上で、聴衆が代わる代わる手厳しい批判を加える。普段の総和なら、あらかじめ口裏を合わせて批判のレベルを調整することもできるが、この場合はそうもいかない。また長時間続くこともあり、メンタルへのダメージが非常に大きく、社会的にも顔が立たなくなる。

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そんな思想闘争の様子を撮った動画が、当局により配布されている。

デイリーNKが最近入手したこの動画には、個人の財産を常習的に盗んだ者、複数回にわたって法的処罰を受けたのに改悛していない者など、窃盗、暴行、売淫(性売買)、売淫斡旋、麻薬使用、国家財産窃盗などの罪を犯した平壌市民5人が、群衆の前に引き立てられてきて、公開の場で批判を受ける様子が収められている。

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開場では批判対象者の実名、住所、職場、肩書、前科など、個人情報が事細かく読み上げられた上で、嵐のような批判が始まる。そして、最終的には5人全員に平壌からの追放が言い渡される。

首都・平壌には誰でも住めるわけではなく、成分(身分)がよく思想に問題のないとされた「選ばれし者」だけが居住を許される、ある意味、住んでいるだけで特権層と見なされるようなところだ。厳しい規制や政治行事などへの頻繁な動員などのデメリットはあるものの、それと引き換えに、北朝鮮国内では最も安定した生活を期待できる。

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そんな平壌からの追放は、もはや豊かで安定した暮らしは望めず、一生貧困から抜け出せないという「死刑宣告」に等しい。ましてや平壌ですら人々が飢えるほどの食糧難の現在、地方の深刻さは言うまでもないだろう。

その様子を動画として見せるだけで、平壌市民を震え上がらせ、犯罪を予防する効果があるほどなのだ。

(参考記事:「死ぬよりつらい」北朝鮮の飢餓、金正恩の”おひざ元”で悲鳴

ナレーションでは、「暴露された犯罪者どもの罪状を見れば、社会主義は銃だけで守れるものではない(ことがわかる)」「尊厳高きわが国の社会主義制度をどうにかしようと発狂する敵どもの策動に同調したこれらの者に対しては、少しの我慢も必要ない」などの脅し文句が続く、

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そして最後に、こう締めくくるのだ。

「ありとあらゆる反社会主義、非社会主義的現象を一掃するために、さらに強い攻勢を繰り広げなければならない」
「われわれの一心団結を決死擁護し、政治的安定を徹底的に守ることに積極的に貢献しなければならない」

食糧事情の悪化に伴い、地方はもちろん、平壌でも犯罪が多発している。特に多いのは個人財産や国家財産の窃盗、麻薬、性犯罪、国外情報の持ち込みや流布、国内情報の持ち出しだ。当局は、これら犯罪に対する戦争を布告し、防犯キャンペーンを大々的に繰り広げている。今回の動画はその一環で配布されたようだ。

(参考記事:飢餓で混乱…金正恩の首都に迫る「巨大な盗賊の群れ」

デイリーNKの内部情報筋によると、最近の傾向として、当局は刑法による取り締まり基準を厳格化している。そのため、何に注意すれば犯罪にならないかを熟知するために、また、犯罪から身を守るために、これらの動画を熱心に見る人が多いという。

この食糧難の原因はそもそも、鎖国状態にするという度を越したゼロコロナ政策にある。生活苦への対策は打たず、締め付けを厳しくするばかりの犯罪対策では、犯罪が減ることはないだろうと、情報筋は嘆いた。