昨年4月に完成した、北朝鮮の首都・平壌郊外のタワマン団地、松新(ソンシン)・松花(ソンファ)地区。ご自慢の国内最高300メートルの80階建てタワマンをはじめとして、160棟もの中高層マンションや公共施設が立ち並び、北朝鮮で今一番ホットなエリアだ。
ところが、わずか9カ月という「速度戦」(速いことはいいことだ)で建てられただけあって、様々な問題が浮上している。
速度戦で建設されたマンションは質が度外視され、手抜き工事となることが多い。平壌では2014年5月、23階建ての新築マンションが崩壊し、約500人が死亡する大惨事が起き、警察幹部が遺族に謝罪する異例の事態が起きている。
今回、問題となっているのは断水だ。デイリーNK内部情報筋によると、和盛(ファソン)地区1万世帯住宅建設現場中央指揮部に今月2日、「人民軍(北朝鮮軍)施工参謀陣を動員して松新・松花地区の80階建てマンションなど一部建物の断水問題を解決する案を模索せよ」との指示が、上部から下された。
(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面別のタワマン団地である和盛(ファソン)地区の建設指揮部に指示が下されたのは、かつて松新・松花地区の建設に関わっていたから、というのが情報筋の説明だ。
松新・松花地区、和盛地区ともに、2025年までに5万世帯の住宅を建設、供給するという野心的な計画の一環で、金正恩総書記は、「千年責任を持ち、万年保証する」として、質の良さを繰り返し強調している。それなのに断水問題が起きているとは、絶対にあってはならないこと。早速対策に乗り出したというわけだ。
「軍と内閣が平壌市に、新規建設された住宅の冬場の断水問題を深刻に捉え、責任を持って解決させる」(情報筋)
(参考記事:「党と大衆の一心団結の誇示」金正恩氏、1万世帯住宅建設場を現地指導)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
入居者の間からは「眺望がいくらよくても、断水問題が解決しなければ、水汲みがしやすい古い低層マンションの方がマシだ」という声が上がり、このままでは国に対する信頼がゆらぎかねないとの危機感があったようだ。
早速、和盛地区で建設工事に当たっている人民軍の施工参謀が、昼夜の余裕のある時間に動員され、緊急会議を行い、松新・松花地区80階建てマンションの現地調査を行った。そして、大馬力のエンジンとポンプを屋上に設置し、水をいったん汲み上げた上で、下のフロアへと供給する案を模索し、それに必要な資材のリストを上部に提出した。
詳細は不明だが、現在は、水道に圧力をかけて下から上に給水する「増圧直結給水方式」が取られているようだが、日本では15階くらいが限度とされているとのことだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面今月9日、平安北道(ピョンアンブクト)と平安南道(ピョンアンナムド)の貿易管理局と新義州(シニジュ)税関に、2つの地区の高層マンションに設置するエンジン、ポンプ、その他の部品などを緊急輸入するよう指示が下された。また、完成していない和盛地区のマンションでも、問題が発生しうるとして、あらかじめ対処する方針だ。
(参考記事:「いずれぜんぶ崩壊」金正恩自慢のタワマン、目撃者ら証言)前述したとおり、速度戦で建設されたマンションでは様々な問題が発生する。そのため、一般的には新築より、問題がないとわかった中古マンションの方が、それも泥棒に侵入されにくく、断水時にも対応がしやすい低層マンションの中くらいのフロアが最も人気が高い。
(参考記事:北朝鮮「23階建てマンション崩壊」消えた数百人の遺体)