朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の総政治局は、年始早々から軍人の家族の生活態度に問題があるとして、その実例をあげつらった資料を配布し、違反者を処罰すると警告を下した。
デイリーNKの軍内部情報筋によると、総政治局は今月2日、各軍種、兵種の司令部付の政治部に対して「2022年全軍家族指導課総合報告総和資料ならびに2023年事業報告」というタイトルの文書を送付し、軍人家族の反社会主義、非社会主義(風紀紊乱行為)に対する闘争を強く推し進めることを強調した。
これは、昨年末に行われた朝鮮労働党中央委員会第8期第6回総会拡大会議で、金正恩総書記が2023年を、国防の主体である朝鮮人民軍を政治思想的、軍事技術的威力を強化する年に定めたことによるものだ。
(参考記事:「今年もダメだ。すでに終わった」金正恩発言に国民も落胆)この文書には、反社会主義、非社会主義行為の具体例が記されている。まず挙げられたのは、「軍人家族の女性の美風良俗の阻害現象」だ。
韓国と接する軍事境界線の警備を担当する第2軍団の軍人の家族の女性の中には、こんな「けしからん行為」をする者がいるとあげつらった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面○義理の両親に半ズボン姿で接する
○派手だったりスケスケの服で部隊に出入りする
当局は1970年代から、女性が制服以外のズボンを履くことを禁止。2000年代以降は解禁と禁止を繰り返している。同時に派手な格好も禁止している。いずれも韓国など外国の影響を受けたもので、非道徳的という理由からだ。特にジーンズとミニスカートは目の敵にされてきた。
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人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面軍人の妻たちももちろん、そうした環境で育ってきたわけで、権力が何を嫌うかは百も承知だろう。それにもかかわらず軍当局が警告を発したのは、若い世代の妻たちの行動が「やり過ぎ」と見なされたということだ。
(参考記事:若者数十人の「見せしめ映像」も…北朝鮮「ミニスカ女性」に厳罰)次に挙げられたのは、第8軍団の軍人家族芸術小組公演に関連した不正行為だ。
○宣伝隊や芸術団の俳優を、軍官(将校)の妻だと偽って「不正選手」として公演参加者を選ぶ審査に参加させた
○最終審査で住民登録文件のチェックでバレて不合格となった
「不正選手」とは身代わり受験のことを指すが、この手のコンクールや受験の類は、カネとコネで方をつけるのが当たり前になっている。だが、批判の対象となったことで、当面は難しくなりそうだ。
「今年の軍人家族芸術小組公演への不正選手参加はまったくできなくなった。カネを払ってでも一度でいいから参加したいという軍人家族の心理を利用して、ワイロを要求して不正選手を参加させていたりさせるつもりだった宣伝部の幹部たちは、緊張している」(情報筋)
(参考記事:金正恩の「模範的な子ども達」のどす黒い内幕)他にも次のような「軍機紊乱行為」が挙げられた。
○若い軍人家族の妻が、子ども産もうとしない
○「少しでも若い時に市場で生活基盤を築かなければならないから」と夫に早期除隊を勧める
晩婚化と非婚化、少子化は北朝鮮でも深刻だとされており、それは軍人も変わらないようだ。「革命的に恋愛、結婚し、革命的な家庭を築く」ことを国民に求める北朝鮮にとっては、けしからん行為なのだ。ましてや、商行為が禁じられている軍人が、商売で儲けようと軍人を辞めるなどとはもってのほかだ。
各部隊の政治部家族指導課は、軍人家族の女性の思想的変質を厳しく取り締まってこそ、夫である軍官が戦争の準備に寄与できると教育してはいるものの、若い軍官の妻たちは、「さっさと除隊すればいいのに」と考えているとのことだ。
(参考記事:北朝鮮の若者の間で急増する「結婚せず子どもも産まずに同棲」)世の中の変化に敏感な女性が、様々な良からぬ影響を軍人である夫に与え、軍機が崩壊することを軍当局は警戒し、警鐘を鳴らすために文書を発行したというのが、情報筋の説明だ。
上述の行為は、北朝鮮社会全般で広く見られることで、軍隊とて例外ではないということだ。当局は思想教育の強化で対応しようとしているものの、さほど効果は期待できないだろう。