「わが国の言葉は消滅の危機に」文化の浸食に悩む北朝鮮

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北朝鮮と韓国は元々、方言の差はあれど同じ言語を使ってきた。ところが、分断から70数年を経る中で、言葉に大きな変化が生じた。韓国の民族語大辞典編纂委員会が2016年に南北朝鮮の辞書を比較調査した結果、一般的な単語の38%、専門用語に至っては66%も異なることがわかった。

「教養ある人々が使う現代ソウルの言葉」をベースにした韓国の標準語と、「革命の首都でゆりかごである平壌を中心にした言葉」をベースにした北朝鮮の文化語(標準語)ではそもそも違いがあった。

その上、韓国が外来語を英語から受け入れ、北朝鮮はロシア語から取り入れた。さらに、植民地支配下にあった時代に流入した日本語を置き換える作業を南北別々に行ったことなど様々な理由で、言葉に変化が生じた。

そんな分断された民族の言葉が、文化の力で統一されようとしている。リードしているのは韓流だ。

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1990年代中盤ごろから始まった北朝鮮への韓流の流入は、言葉や文化を韓国式に変化させつつある。若者の間では韓国風の言葉遣いが流行し、当局が取り締まりに追われているが、既に定着したものを強権的に変えようとしても、そううまくいくわけがない。

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来年1月17日から首都・平壌で開催される最高人民会議(国会に相当)第14期第8回会議では、「平壌文化語保護法」の採択について討議されると、国営の朝鮮中央通信が報じている。その背景について、プロパガンダ担当部署の幹部が語った。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、朝鮮労働党平安南道委員会(道党)は今月17日、宣伝扇動部の部長の直接指導の下、土曜幹部学習会を開催した。これには、宣伝扇動(プロパガンダ)のイルクン(幹部)が参加した。

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党の宣伝扇動イルクンが革命戦士としての任務を果たせていないため、固有のわが国の言葉に反動文化、つまり韓国風の言葉遣いが混ざり、度を越すに至った――そう語った部長は、次のように危機感を示した。

「わが国(北朝鮮)の文化語は、消滅する危険な岐路に立っている」

例えば、「オッパ」という言葉は本来、妹が実の兄を呼ぶときに使う言葉だが、年上のボーイフレンドを指す韓国式の表現が流行、定着している。また、「恥ずかしい」は南北共通の言葉で「チャンピハダ」というが、韓国の俗語である「チョクパルリダ」が北朝鮮の若者の間で流行するなど、例を挙げるときりがないほどだ。

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部長は「党員と勤労者、青少年を敵どもの謀略宣伝扇動から守れず、全社会的に蔓延している反動思想文化が度を越している」と、自分たちが適切な対応を取れなかったことから韓流が広がっているという事実を認めた。

また、10代から30代の若者が、韓国の言葉や行動を真似することを「進んでいる」「新しい文化へのチャレンジ」であるとポジティブに受け取っているとも指摘し、そのような反動文化を清算することが、来年の最大の重点課題となると語った。

さらに、「若者が自ら赤旗を降ろし、資本主義の言葉に憧れを持ち、わざと真似しようとするのは危険な社会風潮」だとして、「文化語保護法が採択されると同時に、イルクンは若者と一般党員、勤労者を思想的に目覚めさせるために、2023年の個別の思想事業方向を定めよ」と述べた。韓国文化浸透にストップをかけるための具合案をそれぞれが考えろということだ。

彼らの目論見が達成されることはまずないだろう。若者のみならず、北朝鮮国民のほとんどが延々と繰り返される思想教育にウンザリしている。号令をかければ学習会にも参加し、表立っては立派なは文化語を使うだろうが、結局は面従腹背だ。裏で隠れて韓流を楽しみ、韓国風の言葉遣いでおしゃべりすることに変化はないだろう。

唯一の方法になりうるのは、韓流を凌駕するほど良質のエンタメを北朝鮮が独自に量産することだが、それは果たして可能だろうか。

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