海外でも広く知られている北朝鮮のメディアと言えば、国営の朝鮮中央テレビ、朝鮮労働党機関紙の労働新聞などが挙げられる。いずれも金氏一家の神格化、長ったらしい思想に関する記事、「どこそこ工場で大増産に成功」といった根拠不明の経済報道など、コンテンツは無味乾燥なものばかりだ。
それ以外の北朝鮮メディアも、商品広告や、犯罪防止を目的とした吊し上げの意味合いが強い事件報道など、多少の違いはあれど、基本的な内容は朝鮮中央テレビや労働新聞とさほど変わらない。
それに慣らされた北朝鮮の人々にとって、国内外の様々なニュースを伝える韓国のテレビは非常に刺激的で、一度見ると中毒になってしまう。だからといって、見たことを下手に口にしてはならない。誰に密告されるかわからないからだ。
黄海南道(ファンヘナムド)のデイリーNK内部情報筋は、市場で商売をしていた女性が、ある発言のために逮捕されたと伝えた。
事件が起きたのは道内の白川(ペチョン)。幅10キロほどの漢江の河口を挟んで、韓国の江華島(カンファド)の対岸に位置するところだ。白川の市場で商売をしている女性のオさんは、食料品を売りつつ、密かに録画した韓国のテレビをUSBメモリに保存して売っていた。夜、自宅で韓国のテレビを見るのが習慣になっていた彼女はある日、こんな話をした。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「わが国(北朝鮮)には正しい報道と新聞がない。外国(のメディア)は加工されていない生き生きとしたニュースを伝えている。わが国の新聞と放送はすべて捏造でウソだ。人々が多く集まり、情報を聞いて伝える市場こそが、わが国の最も正確なメディアだ」
この発言が、何者かにより密告され、オさんは商売の途中だった先月28日午後5時、衆人環視の中、黄海南道保衛局(秘密警察)の反探課(スパイ担当部署)により逮捕された。また、白川ナマズ工場に勤める夫と、大学に通う娘も逮捕された。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「朝鮮労働党の『喉』であるわが国の新聞、放送を中傷し、他の国のものの方がマシだと流言飛語(デマ)を流し、党を裏切り、社会を見下したことは非社会主義であり、反社会主義行為に当たる」というのが逮捕理由で、政治事件として扱う方針だ。つまり、軽い処罰では済まされないということだ。
なお、自宅は家宅捜索され、家の玄関には木の板が打ち付けられ、出入りできないようにされた。また、人民班長(町内会長)は、パトロールを行うように命じられた。
(参考記事:男たちは真夜中に一家を襲った…北朝鮮の「収容所送り」はこうして行われる)とばっちりを食ったのは、他の商人や地元民だ。保衛局は、この話が口コミネットワークで住民の間に広がったのではないかと見て、調査のために、先月29日から今月7日まで、市場を営業停止にし、関連したすべての住民を取り調べている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ただでさえ、白川市場の営業時間が午後4時から6時までの2時間に制限されていたところに、9日間も営業停止を食らい、すべての物資購入を市場に頼っている地元民は相当の不便を被った。
現在は営業を再開しているが、地域の保衛員や安全員(警察官)が毎日市場をパトロールし、売台組長(市場のグループのリーダー)たちを呼び出しては「商売だけして、余計なことを言うな」と要請している。市場が閉まれば自分たちも困るからか、市場の商人のパワーを恐れているからか、きつい命令ではなく、要請のレベルに留めているようだ。
(参考記事:市場への規制強化で商人の反発を買う北朝鮮)