北朝鮮国営の朝鮮中央通信は、今月15日以降、全国の発熱患者、死者の新規発生数と累計を毎日伝えている。同通信によると、25日18時までの24時間に確認された発熱患者の数は10万5500人余り。また、4月末から25日18時までの発熱患者の累計は317万380人余りで、289万8500人が全快し、68人が死亡した。
こうした数字は、朝鮮労働党機関紙の労働新聞などにも転載されている。
14日18時からの24時間に発生した39万2920人に比べると、減少傾向にあることがわかるが、当局はこのような情報も政治宣伝に利用している。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
恵山(ヘサン)市内の各人民班(町内会)では21日、両江道非常防疫指揮部の名義の回覧板が回された。その内容は、発熱患者が大幅に減少しているというものだ。以下、その一部を抜粋する。
「元帥様(金正恩総書記)が送ってくださった恩情のこもった愛の不死薬で、全快者が速く増えており、恵山市の場合、発熱患者2700人中、1500人が全快し、1200人に減った」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「党と国家が行った防疫政策の正当性と科学性を実生活を通じて住民が実感できるようにして、党中央の示した方針と政策を生命線として受け止め、悪性ウイルスを撃退する最後の日まで信念を持ち、防疫大戦に思想的に動員されるべき」
「こんにちの防疫戦は、単純に悪性伝染病との闘いではなく、われわれの思想と制度、尊厳と能力、団結力と戦闘力の成敗を分かつ、非常に厳しい対決戦であることをよく知り、すべての住民が痛切な革命精神を持ち、党中央の思想と意思の通りに考え、行動すべき」
北朝鮮においては、良いことはすべて金正恩氏の指導力に結び付けられる。これもありふれたレトリックだが、感染拡大が抑えられつつあることをアピールし、移動禁止や市場営業停止などの強い統制に対する不満を払拭する意味合いがあるものと思われる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面だが、これに対する住民の反応は次のようなものだ。
「病気は、思想と信念で治すものではない」
首都・平壌では薬の供給が始まっているが、地方には行き渡っておらず、人々は医薬品価格の高騰に苦しめられている。病院には医薬品がなく、患者はいかなる治療も受けられていない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「伝染病患者には思想や信念よりはワクチンや治療薬が必要なのではないか」(情報筋)
(参考記事:コロナ急増の北朝鮮で医薬品価格が3倍に…品薄も深刻)
また、形骸化して久しい「社会主義保健制度」に対する不満も大きいようだ。かつては、すべての国民が無料で医療を受けられたが、今では薬を市場で購入して服用するしかない。それなのに、今さら「政策の正当性と科学性」などを強調されても、何をか言わんや、というわけだ。
(参考記事:コロナ前から「医療崩壊」の北朝鮮、子どもの死亡例が相次ぐ)そもそも、発熱患者が減少しているという情報自体が、信頼の置けるものかどうかも不明だ。
韓国の統一保健医療学会の理事長を務める高麗大学医学部のキム・シンゴン教授は、19日に開かれた統一研究院の緊急討論会で、「北朝鮮が明らかにした発熱患者のほとんどがオミクロン感染者だとすれば、全体の感染者の数はその4〜5倍に達する」との見方を示している。
一方、情報機関の国家情報院は、北朝鮮の発表する発熱患者には、腸チフス、麻しん、百日咳の感染者も含まれており、コロナ感染者の実数はわからないとしている。