「自暴自棄になり暴力に走る理由は…」金正恩が抱える深刻な課題

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「脱営」とは軍隊から無断で脱走することを指し、多くの国で犯罪行為として扱われる。それは北朝鮮とて同じで、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)では、脱営した兵士に対しては生活除隊(不名誉除隊)の処分を下していた。だが、最近になってその方針を転換し兵役が満了するまで勤務を続けさせることにした。その理由について、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)茂山(ムサン)の軍関連の情報筋は、朝鮮人民軍総政治局が先月、脱走兵を処罰する代わりに、精神教養と思想改造を通じて満期除隊させるという内容の指針を下したと伝えた。

今までは、脱走を3回行った者は生活除隊させ、炭鉱や農村に送り込んでいたが、今後は除隊させずに思想教育を施した上で、兵役が満了するまで軍での勤務を続けさせることになる。

茂山のある部隊では先月、10代の新兵が脱走する事件が起き、部隊総出で捜索に当たったが、故郷の咸興(ハムン)にいたところを発見され、13日後に連れ戻された。脱営したのは、空腹に耐えかねてのことだった。その後、部隊の保衛部(秘密警察)で取り調べを受けたが、現在では通常勤務に戻っている。

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そもそもの問題は、軍の補給にある。軍の食糧は協同農場での収穫に頼っているが、輸送過程での横流しなどで目減りし、末端の兵士のもとに届く頃にはすっかり量が減っている。そのため脱走しなくとも、栄養失調にかかって親元に帰される者が後を絶たない。

(参考記事:国と軍に納めたはずのコメが次々に消えていく北朝鮮の謎

そして今回、脱走兵を除隊させない方針に転換したのは、彼らが社会に出て様々な問題を引き起こしていることが、金正恩体制の新たなリスクとして浮上しているからだ。

生活除隊の処分を受けた者は政治的に問題があるとみなされ、その後の人生に様々な不利益が生じるが、反省するよりは自暴自棄になり、事あるごとに問題を引き起こしてきたという。

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また、コロナ鎖国以降に脱走が増えていることも、方針変更の背景にあると情報筋は説明した。2〜3年前までは1ヶ月に1〜2人だったのが、コロナ鎖国以降に食糧配給が以前にもまして劣悪になり、1ヶ月に3〜4人に増加している。

咸鏡北道清津(チョンジン)市の青岩(チョンアム)区域の軍関連の情報筋は、連川里(リョンチョンリ)に駐屯する海岸警備隊に先月初め、脱走兵を生活除隊させず、精神教養と思想改造を行って満期除隊させられるよう、指揮官が積極的に指導せよとの指示が下されたと伝えた。

脱走の理由の多くが、単純に空腹に耐えかねてというものがほとんどで、思想的に問題があるとして鉱山や農村に送り込むと、問題を引き起こすという理由からだ。

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実際に、部隊近隣の農場では、生活除隊させられた元兵士たちが無断欠勤したり、ガラス窓を割ったり、農場幹部にくってかかったりするなどの事件を起こしている。幹部の「娑婆では真面目に暮らさなければならないのではないか」という言葉に怒ってのことだったという。

つまり、軍で「問題を起こしたから除隊させられた」という扱いをされたことで、怒りを爆発させたわけだが、生活除隊の対象者は出世の道が閉ざされ、まともな人間扱いをされなくなる。そんな社会的雰囲気が、生活除隊させられた元兵士を暴力に走らせているのではないかと批判する声もあるとのことだ。

生活除隊を免れたとしても、兵役満了後には、元々住んでいたところに帰ることを許されず、労働力の不足している鉱山や農村に送り込まれる「集団配置」が行われている。これは実質的に島流しと変わらない。どれだけ軍で真面目に勤務したところで、行き着く先は結局同じということだ。

(参考記事:「10年も耐えたのに…」北朝鮮兵士ら、農村行き命令に不満