北朝鮮の首都・平壌郊外にある平安南道(ピョンアンナムド)平城(ピョンソン)で先月30日、女性講師と10代の生徒らが逮捕される事件があった。彼らの容疑とは、外国のダンスを教えた、習った、というものだ。詳細を米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。
平城の情報筋によると、市内の陽地洞(ヤンジドン)で、30代の女性講師は、10代の生徒6人に、液晶テレビに挿入されたUSBメモリに保存された外国の映像を見せながらダンスを教えていた。
この手のダンス教室は数年前から増加したという。講師が生徒から授業料を受け取って、自宅で教えるというものだ。
(参考記事:塾と家庭教師が増加、ITやダンスの授業も…北朝鮮の最新教育事情)その現場に、平安南道保衛局(秘密警察)と安全局(警察)からなる非社会主義グルパ(取り締まり班)が踏み込んだ。それも、家の周辺で張り込みを行い、生徒たちが家に入るのを見てからのことで、最初から一網打尽にする目論見だったのだろう。彼らはUSBメモリを押収し、その場にいた7人全員を逮捕した。
北朝鮮当局は、欧米や韓流アイドルらが躍るダンスを「資本主義の堕落した文化」と敵視。外国のダンスを教えたり習ったりすることは非社会主義行為――すなわち当局の考えるところの社会主義にそぐわない、社会を乱す現象として捉えているのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面講師に対しては、労働教化刑(懲役)が確実視されている。2020年12月に成立した「反動的思想・文化排撃法」に違反した場合、最悪なら死刑もあり得る。有期の懲役ならまだマシだが、環境の劣悪な北朝鮮の刑務所から五体満足で出所するのは、容易なことではない。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
2月1日の旧正月前後は当局の取り締まりがゆるくなるため、自宅でご禁制の韓流ドラマ、映画を見たり、外国の歌を歌ったり、ダンスを踊ったりする者が増えるが、それを見越して取り締まりを強化していたとのことだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)の情報筋は、平城で起きた事件のことを現地に住む友人から携帯電話で聞いたとし、逮捕された女性講師について語った。
知人の話によると、美貌で知られる女性は平城芸術大学でダンスを専攻し、数年前から平城市の玉田(オクチョン)高級中学校(高校)の教員として配属されたが、わずか3000北朝鮮ウォン(約72円)の月給では暮らして行けず、個人でひそかにダンス教室を営み、生計を立てていたとのことだ。
(参考記事:北朝鮮で家庭教師禁止令…「平等教育に背く」)教室は、10代の中高生を相手に週2回1〜2時間開かれ、生徒たちは北朝鮮の踊りより、韓国、中国、米国など様々な外国のダンスを好むため、それらを教えていた。ちなみに授業料は1回あたり10ドル(約1150円)だった。1回に10ドルも払えるのは、幹部や平城に多いトンジュ(金主、新興富裕層)を親に持つ子どもたちと思われる。