「このXX野郎どもめ、何が人民の下僕だ!」
北朝鮮では、庶民がイナゴ商人(露天商)の取り締まりなどに当たる安全員(警察官)に、こんな暴言を浴びせかけて抗議することがしばしばある。
しかし、今回そんな言葉を食らったのは、直接ではないとは言え、地方のトップだというから驚きだ。いったい何が起きたのか。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
(参考記事:「どうやって食えというのか」北朝鮮で集団抗議活動、当局緊迫)話の主人公は70代女性のキムさん。北朝鮮第2の都市、咸興(ハムン)で12歳と15歳の孫を一人で育てていた。しかし、おりからのコロナ不況で、孫にまともな食事を与えられないほど困窮したキムさんは、朝鮮労働党の区域の委員会(区域党)と、咸興市委員会(市党)を訪れ、食糧問題の解決を訴えることにした。
(参考記事:「禁断の味」我慢できず食べた北朝鮮男性を処刑)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面だが、明確な答えを得られなかったことから、キムさんは朝鮮労働党の咸鏡南道委員会(道党)の責任書記、つまり地方のトップに直接会って直訴することにした。そして、先月11日から毎日のよう、道党に通い、責任書記に合わせろと受付や道党保衛隊に頼み込みこんだが、誰として彼女の訴えに耳を傾けようとしなかった。
「皆が平等な社会主義」という表向きの看板とは異なり、徹底した階級社会である北朝鮮で、地方のトップが一介の庶民と面談することなど非常に困難なことだ。それでもキムさんは諦めず、20日間以上も道党に通い続けた。そしてついに責任書記に会えることになった。
責任書記に会うやキムさんは「党を信じて党の方針と指示どおりに生きてきたのに、食べるものがない」「孫たちは飢えて起き上がることすらできない」「こんなに苦しいのに、党でなければ誰が解決してくれるのか」と涙ながらに訴えた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面責任書記は「党が責任を持って解決するから、安心して家に帰って待ちなさい」と伝え、彼女を家に送り返した。
ところが、彼女を待っていたのは食べ物ではなく、「なぜ道党なんかに行って問題をややこしくするのか」という人民班長(町内会長)からの叱責だった。それに怒った彼女は家を飛び出し、街なかでこう叫びつつ歩いたという。
「党幹部はペテン師だ。人が餓死しそうなのに、鼻にもかけない」
「このXX野郎どもめ、何が人民の下僕だ!」
ちなみに伏せ字にされている部分は、朝鮮半島全域で非常によく使われる悪口だが、韓国では放送禁止用語にされているようなものだ。
情報筋は、彼女が咸鏡南道の最高権威者のイメージを乱したという理由で厳罰に処される可能性があると指摘した。現在、「マルパンドン」(言葉の反動=反政府的言動)に対する取り締まりが強化されていることを考えると、ただでは済まされないだろうが、その一方で、老人が大切に扱われるお国柄で、下手な罰を下すと庶民の反感を買う可能性もあり、当局は対応に苦慮していることだろう。
(参考記事:町内会長に「禁断の発言」をぶつけた北朝鮮女性が処刑の危機)人民大衆第一主義を掲げてはいるが、一般人民は政治家に不満の一つも言えないというのが北朝鮮という国なのだ。