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かつての旧共産圏同様、北朝鮮で蔓延しているのが、地位や職責を利用した横領や窃盗の類だ。1990年代の大飢饉「苦難の行軍」のころから深刻化したが、今でも状況は変わっていない。協同農場から軍部隊に食糧を輸送する担当者は、中身を市場に横流ししたり、安物に入れ替えたりし、配電担当者はカネを受け取って工場向けの電気を勝手に個人に売り払う、といった具合だ。

さて、今回紹介するのは、部下や上司からの評判がよかった駅長による多額の横領事件だ。

(参考記事:北朝鮮「国家財産」盗まれ大問題…コロナ禍で食い詰め深刻

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、今月初めに恵山(ヘサン)駅の営業所のキム支配人(50代)が横領容疑で取り調べを受けたと伝えた。

2014年3月に任命されたキム支配人は、非常に評判のよい人物だった。崩壊して久しい北朝鮮の配給システムだが、この営業所では、駅員に対して給料と配給をきちんと支給していたからだ。

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国からの予算が得られない状況で、いかにして配給システムを維持したのかについて、情報筋は触れていない。考えられることとしては、ダフ屋にきっぷを割り当て、その見返りにワイロを得るやり方がある。ところが、何らかのきっかけでそれがうまくいかなくなったのだろう。

(参考記事:切符はダフ屋から購入する北朝鮮の鉄道事情

彼を慕っていたはずの部下の駅員は、支配人が給料と配給の支給ができなくなったことで態度を一変。それをきっかけに上部に信訴(内部告発)したのだという。検察所が検閲(監査)に乗り出したところ、支配人は今までに1500万北朝鮮ウォン(約34万5000円)もの巨額を横領していたことが判明した。

従来なら教化所(刑務所)送りになる場合もあれば、警告で済まされる場合もあったが、今回下された処分は横領額の3倍にあたる4500万北朝鮮ウォン(約103万5000円)を弁償せよというものだった。これは、国家および社会協同団体の財産に損害を与えた場合に損害額の全部、または一部、倍数を弁償すると定めた行政処罰法21条に基づく処置と思われる。

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情報筋は、検察所がキム支配人の弁償処罰は党の方針と法の条項に基づいて処理したものだと強調しているとし、彼にとって塀の中で暮らすよりもっと過酷なものかもしれないと評した。ちなみに、北朝鮮で4人家族の一般的な生活費は月50万北朝鮮ウォン(約1万1500円)なので、今回の賠償額は7年6ヶ月分にあたる。

経済的に余裕があるのなら、裁判官、検察官にワイロを掴ませてもみ消すことも可能だったろうが、情報筋が「今回の判決は今後市内人、会計員など工場、企業所の責任イルクン(幹部)が国家財産に手を付ければどうなるかを見せつける例示だ」と述べていることから、見せしめとして過酷な処分が下された可能性も考えられる。この手の横領がいかに深刻であるかを示している。

(参考記事:トウモロコシとコメで「無罪」を勝ち取れる北朝鮮の公開裁判