一時は北朝鮮ウォッチャーの間で「金正恩総書記が最も信頼する側近」のひとりと考えられていた、崔輝(チェ・フィ)前朝鮮労働党副委員長の姿が見えない。1月の第8回党大会で党政治局委員と党中央委副委員長を解任されて以降、動静がぷっつり途絶えているのだ。
崔氏の現況については、粛清説が囁かれる一方で、「高齢のため引退し、悠々自適に暮らしている」との情報もある。それでもやはり、粛清説を無視できない理由がある。金正恩氏の妹である金与正(キム・ヨジョン)党副部長との関係の「近さ」だ。
崔氏と同じく金正恩氏の側近のひとりであった、朴泰成(パク・テソン)党宣伝書記の処刑説については、本欄でも言及した。朴氏と崔氏には、ひとつの共通点がある。2人とも、党宣伝扇動部長を歴任し、同部に籍を置く金与正氏の「上司」の地位にあったということだ。
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崔氏はまた、2018年に韓国で開かれた平昌冬季五輪に、金与正氏を含む高位級代表団の一員として参加した。このときに韓国高官と会談した際、金与正氏が崔氏より上位の席に着いたことが話題になった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面金与正氏の身辺では、昔から不吉なことが起きている。学生時代には、親しい友人たちが集団失踪する事件も起きた。
(参考記事:金正恩氏実妹・与正氏の同級生がナゾの集団失踪)韓国紙・東亜日報記者のチュ・ソンハ氏によると、歴代の党宣伝扇動部長たちは、金与正氏と葛藤を抱えていたという。
同部が統括する北朝鮮のメディア戦略は、金正恩時代になって大きく変化した。金正日時代には、最高指導者は神秘的なイメージをまとっていた。しかし、党機関紙や国営メディアに登場する金正恩氏の姿は実に開けっぴろげだ。最高指導者の夫人がファーストレディとして露出するなど以前はなかったことだし、最高機密のはずの新兵器の写真や映像もバンバン公開されている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面このような劇的な変化に、スイスでの海外生活も経験した金正恩氏と金与正氏の若い感覚が作用しているのは間違いないだろう。彼らのセンスに、高齢の党幹部がついていけなかったとしても不思議ではない。
その過程で、金与正氏と彼女の上司たちは互いを疎むようになったのではないか。そうなった場合、金与正氏が致命的な不利益を被ることはないが、上司たちは命取りになりかねない。
崔氏や朴氏が実際にどうなったかは、今しばらく見極める必要があるが、金与正氏の政治的なパワーが増すにつれ、彼女と党幹部たちの関係にいっそう注目が集まるのは間違いない。