女囚たちの不可解な死…北朝鮮「限界刑務所」の闇にメス

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世界最悪とも言われる人権侵害が横行する北朝鮮で、最も人権侵害が深刻な場所といえば、労働鍛錬隊、教化所(いずれも刑務所)、管理所(政治犯収容所)などの拘禁施設だろう。不衛生極まりない環境でまともな食事を与えられないまま強制労働に追いやられ、看守の暴言、暴行は日常茶飯事だ。

病気や虐待で命を落とす者もいれば、些細な過ちを咎められ公開処刑される者もいるが、亡くなった後もまともな扱いなど期待できない。

(参考記事:焼け残った遺体を犬が…北朝鮮刑務所の生き地獄

そんな教化所の一つ、平安南道(ピョンアンナムド)の甑山(チュンサン)教化所で、鍛錬生(刑期の短い受刑者)2人が死亡する事件が起きた。これが問題となり、教化所が検閲(監査)を受けるという異例の事態となっている。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた内容によれば、同教化所には1500人から2000人が収容されており、その多くは脱北に失敗して送り返された人々で、当局はとりわけひどい扱いを行っている。所内の14の施設に分けて拘禁されている受刑者らは、主に首都・平壌の特権階級に供給される食糧生産に当たらされている。

(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態

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現地のデイリーNK内部情報筋によると、教化所は、刑期の比較的長い教化生(受刑者)のうち、問題を起こした者を、稲教化課、トウモロコシ教化課、野菜教化課、畜産教化課などに分けて、懲罰労働をさせていた。

今年3月末、経緯は不明ながら、稲教化課に教化生の代わりに女性鍛錬生が送り込まれ、冷床苗代の肥料管理をさせられていた。冷たい水を扱う作業に耐えかねたのかもしれない。1人が心不全で死亡し、もう1人は下肢静脈瘤が悪化して病房(診療所)に担ぎ込まれたが、今月10日に死亡した。後者は以前から病状が思わしくなく、病気による仮釈放を申請していた。

首都・平壌在住の遺族は、2人が不正な扱いを受けたとして、平壌市党(朝鮮労働党平壌市委員会)の法務部に信訴を行った。訴えのポイントは2つだ。

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ひとつは、教化生と違って公民権が剥奪されていない鍛錬生の仮釈放審査は、朝鮮労働党法務部に報告した上で行われることになっているにもかかわらず、教化所を管理する社会安全省(警察庁)の教化局が勝手に審査を行い、不許可の結論を下したのは不当というものだ。

もうひとつは、病気による仮釈放を申請したのに、労働強度の高い稲教化課で働かせ、死に追いやったというものだ。

北朝鮮の信訴とは、不当な行為で不利益を受けたことを公的に訴えることのできる、ほぼ唯一の手段だが、途中でもみ消されたり、訴えの内容が加害者側にバレて報復されたりするなど、非常にリスキーだ。

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ただ、訴えの処理を適切に行っていなかったとして担当部署が摘発される事件が起き、以前と比べて信訴のハードルが下がったせいなのか、あるいは遺族がもともと国の制度に詳しく、権利意識の強い人だったのかはわからないが、いずれにせよ遺族は信訴に踏み切り、それが無事に受け入れられた。

(参考記事:新設された朝鮮労働党法務部の役割を示した文書を全国に配布

平壌市党法務部は、信訴を中央に報告し、鍛錬生が死亡したことではなく、教化局が党の組織指導体系に背いた点に焦点を合わせ、綱紀が乱れていると問題を提起した。

それを受けて朝鮮労働党法務部は、甑山教化所と、その上部機関の社会安全省教化局に指導小組(監査班)を派遣し、大々的な検閲に入った。教化局の指導指揮体系、教化所での死亡者、病房収容者数の統計、教化所の経理課の後方(物資供給)、教化所内の安全員(警察官)、警護員(看守)の処罰の実態などについて検閲を行っている。

言い換えると、物資を横流ししていないか、看守が個人的感情で処罰を行い、受刑者を怪我を負わせたり死亡させたりしていないか、上部機関が適切に指導監督を行っているかという点について詳しく調べているということだ。

(参考記事:数百円で量刑を3分の1にできる北朝鮮の司法制度

また、教化局がワイロの有無で仮釈放の許可不許可や、出所後の行き先を決めている件についても問題視し、今後は党法務部が直接行う方針を示しているという。つまり、教化局の権限を縮小するということだ。

つまり、党法務部は、教化局と教化所に対する党の指導強化のきっかけとするために今回の事件を利用しているということだが、信訴処理の一環として、甑山教化所の所長、稲強化課の課長、担当の安全員に対して出党(労働党からの除名)、徹職(解任)、過誤除隊(不名誉除隊)の処分を下したとのことだ。

教化局所属の安全員たちは「今後は、仮釈放も釈放も党の法務部に報告しなければならなくなり、力もなくなり、食べる卵(ワイロをせびるネタ)もなくなる」とため息をついているという。

一連の検閲、処分だが、国際社会からの北朝鮮の人権侵害に対する強い批判と関係している可能性も考えられる。

(参考記事:「不純な政治的挑発」北朝鮮外務省、EU人権制裁に反発