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韓国と北朝鮮はかつて、朝鮮半島でひとつの共同体を構成していたが、70年に及ぶ分断で社会システムから人々の習慣、物の考えに至るまで、全く別の国と言っても過言ではないほど変化している。韓国にたどり着いた脱北者は、外国に来たのと同じようなカルチャーショックを受けることになる。

それによるトラブルも少なくないことから、脱北者は社会生活を始めるにあたって、統一省が運営する「ハナ院」で3ヶ月間、韓国生活のあれこれについて教育を受ける。それでも、トラブルに巻き込まれる脱北者は決して少なくない。今回、デイリーNK取材班が取り上げたのは、ネットワークビジネスを営むH社による被害だ。被害者は300人にのぼるという。

(参考記事:「個人情報を勝手に出版された脱北者、出版社を訴え勝訴

その手口は次のようなものだ。同社はネットショッピングサイトを立ち上げ、会員になって商品を購入すれば購入額の5倍を積み当てられるとの誘い文句で、人をかき集める。ただし、会員になるにはある程度の出資金が求められる。その額に応じてクラスが決められ、毎日一定量の商品の購入が求められる。

そして、新規会員の勧誘に成功すれば、一定額の積立金が得られる。新規会員を10万人集めると、そこからは本格的に儲かり始めるというのが同社の説明だ。会員は、ヤミ金業者からカネを借りてまで同社の商品を購入し続けた。

被害者のAさん(50代・男性)は、ハナ院を出てから間もない2018年、H社で働く友人から一緒に働いてみないかと声をかけられた。友人もAさんと同じく北朝鮮出身だが、先に脱北して韓国で暮らしていた。Aさんは特に疑うこともなかった。ネット検索で見た、出資金を出せば5倍になって戻ってくるとの宣伝文句に心を動かされた。北朝鮮に残してきた家族を一日も早く韓国に連れて来たいとの気持ちからだ。

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北朝鮮当局による国境警備の強化で、脱北費用はうなぎのぼりだ。地道に働いて貯めるにはあまりにも時間がかかる。「危ない」と止める周囲の声にも耳を貸さず、AさんはH社にのめり込んでいった。

(参考記事:北朝鮮が密輸の取り締まりを強化。結果は「ワイロ高くなるだけ」

ネットワークビジネス被害防止のための団体で働いた経歴を持つという社長、立派な建物に構えられたオフィス、芸能人親子を使ったPRなど、どこからどう見ても疑いの目を向ける余地はなかったと語るAさん。

ところが貯金を使い果たし、残ったのは借金の山。呆れた妻は家を出ていった。彼は現在、心療内科での治療を受けている。家族を一日でも早く韓国に連れて来たいという夢は、もろくも砕け散った。

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自分が声をかけたことで会員になった知人への申し訳無さから、自分のような被害者が二度と出ないことを望むと涙で語るAさん。雨の降る中で、ソウルの衿川(クムチョン)警察署とソウル南部地裁の前で、プラカードを持ち、H社に対する捜査を求めるデモに参加した。

「あの会社にいて、自分が主導して多くの人を被害者にしてしまったという自責の念が大きい。自分のせいで被害を受けた人が、出資金を取り戻せるようにするために、路上に立った」

Bさん(60代・同)もAさんと同じく、北朝鮮に残してきた家族を韓国につれてくるために、仕事のできるブローカーはいないかと調べていたときに、あるイベント会場でH社のことを知った。

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かつてブローカーをしていたという人から、H社のことについて聞かされた。就職するようなものだと思って2016年にH社のシステムに加入した。周囲から止めるように何度も説得されたが、耳を貸さなかった。そんなBさんがようやく正気を取り戻したのは、娘が見せてくれたある動画がきっかけだった。

それは2004年から2008年にかけて、ネットワークビジネス事業者を複数設立して、高収入を約束すると5兆ウォンを騙し取った韓国史上最大の詐欺事件の首謀者、チョ・ヒパルについてのものだった。

Cさん(50代・同)もH社の被害者の一人だ。「法律を知らないから、ひとたまりもなく騙された」と語る彼は、社内に北朝鮮の突撃隊(半強制の建設ボランティア)を模した特攻隊という組織があり、突撃隊同様に無報酬で働かされたと証言した。

韓国の事情に疎いがゆえに、詐欺の被害に遭ったり、政治団体に利用されたりする脱北者が後を絶たない。韓国刑事政策研究院が2007年に出した報告書では、韓国在住脱北者の23.4%が詐欺の被害に遭っているとしている。

そんな被害から保護してくれるはずの警察から、性暴力を受けたという女性からの告発も相次いでいる。

(参考記事:韓国「身辺保護官」からの性暴力に苦しめられる脱北女性