「髪の乱れは心の乱れ」
これはかつて、日本の学校が生徒の髪型、服装、持ち物を取り締まるのに使っていた根拠不明な理屈だ。今でも「ブラック校則」が議論の的になったりするが、髪の毛やスカートが長いからと、衆人環視の中でハサミで切り刻むという、今なら暴行罪で訴えられかねないような生徒指導がまかり通っていた1990年代以前と比べれば、多少はマシになったのではないだろうか。
そんな風紀取り締まりを、国単位で行なっているのが北朝鮮だ。
(参考記事:北朝鮮に「ブラジャー」がもたらした意識変化)
当局は、今月15日の太陽節(金日成主席の生誕記念日)を控え、社会主義生活文化と生活様式を厳格に遵守することについての指示を下し、国民の服装に関する取り締まりに乗り出したと、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が報じた。
今回の取り締まりにあたって当局は、服装の乱れは単純な問題ではなく、思想精神状態を表す重要な問題だと指摘し、すべての国民は社会主義風俗と生活様式に合った服装と髪型にすべきだと強調した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面当局は、学生、女盟(朝鮮社会主義女性同盟)、青年同盟(金日成ー金正日主義青年同盟)のメンバーを動員し、糾察隊(風紀取り締まり班)を工場、企業所、機関の入口や、横断歩道など人の多い所に立たせて、服装、髪型のみならず、肖像徽章(金日成・金正日バッジ)の着用状態、女性がきちんとスカートを履いているかなどをチェックさせ、報告させている。
それも、違反者に対しては、韓流コンテンツの取り締まりをメインターゲットにした「反動的思想・文化排撃法」を適用するというのだから、穏やかでない。服装やヘアスタイル一つで、労働鍛錬隊(軽犯罪者を収容する刑務所)行きになりかねないのだ。
「摘発された者の中で、程度がひどい場合に限って、市・郡・区域の鍛錬隊送りにするなど法的処罰を加えたり、農村や工場での強制労働をさせるなど、処罰のレベルを高める予定」(情報筋)
(参考記事:「ジャッキー・チェン」も刑務所行き…北朝鮮の高校生ら逮捕)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
当局は、党組織を通じて、社会主義生活様式に合わせた服装をすべきというテーマの講演会を開催している。その内容とは次のようなものだ。
「資本主義思想文化は、袋の中の錐(きり)のようなもので、資本主義思想に浸れば、大人も子どもも、服装と髪型に異常な思想状態が反映される。季節の変わり目に資本主義思想の風潮の芽が社会に蔓延し、慢性化する前に摘まなければならない」
情報筋は、今回の取り締まりについての一般住民の反応に触れていないが、今までの取り締まりへの反応と概ね似たようなものだろう。
(参考記事:ジーンズ禁止に北朝鮮国民が反発「ズボンと思想に関係が?」)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
ちなみに北朝鮮当局は、1970年代から2010年代中盤まで、女性がスカートではなくズボンを履くことを禁止していた。また、自転車に乗ることも禁止していた。今回取り締まりの対象となっているのは、スカートを履いているか否かではなく、スカートの長さのようだが、いずれにせよ女性にだけより厳しい規制を強いるのは、人権侵害だ。
(参考記事:北朝鮮の女性が勝ち取った「自転車に乗る権利」)