先月28日、中国との国境に接した北朝鮮の両江道(リャンガンド)金正淑(キムジョンスク)郡で、中国キャリアの携帯電話を使っていた女性が逮捕される事件が起きた。
当局が国内情報の海外流出、海外情報の国内流入をブロックすべく数年前から取り締まりを強化する中、単なる逮捕ならよくある話だ。ところが、この女性の正体が明らかになるにつれ、現地では大騒動となっていると、デイリーNKの内部情報筋が伝えた。
逮捕されたのはリ姓の50代女性。女性は、国境に沿って走る道路を歩きながら、中国キャリアの携帯電話を使って、韓国と長時間通話していたところを、保衛部の電波探知機で発見され、保衛部員6人に激しい暴行を受けた。
(参考記事:手錠をはめた女性の口にボロ布を詰め…金正恩「拷問部隊」の鬼畜行為)
ここで一つの疑問が浮かぶ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面社会安全省(警察庁)は昨年8月、国境地帯の住民に対して、国境沿いに許可なく接近すれば、人であろうが動物であろうが無条件で銃撃するとの布告を出した。それ以降、人間、野生動物を問わず発見され次第撃ち殺される事態が続発している。そんな中で、なぜ女性は国境に沿った道路に接近し、長時間通話ができたのか。
(参考記事:国境地帯で射殺される北朝鮮国民が急増している)案の定、彼女は党幹部の妻であることが取り調べで明らかになった。情報筋は夫の具体的なポストは明らかにしていないが、国境警備に当たる兵士が国境地帯への進入を制止できないほどの人物だったのだろう。
明らかになったのはそれだけではない。彼女は、夫が仕事で受け取った朝鮮労働党の方針、指示文、資料、画像、動画、さらには軍部隊の機密まで、携帯電話を使って送信していたというのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面保衛部の取り調べで激しい拷問は付き物だ。
点数稼ぎのため、彼女を激しく痛めつけ、無実の罪を認めさせた可能性も否定できないが、保衛部は彼女が韓国の国家情報院と内通し、スパイ活動を行なっていたと見て、捜査範囲を拡大している。
家族、親戚、知人を片っ端から連行、勾留して取り調べを行なっているが、問題が大きくなれば、両江道保衛部から人員の補充が行われる可能性もあると、情報筋は見ている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面この事件は、昨年12月に成立した「反動的思想・文化排撃法」による取り締まり強化の格好のネタとなっている。韓流など海外コンテンツの視聴、販売を含めた反社会主義、非社会主義現象の取り締まりを行うグルパ(取り締まり班)の役割と重要性に改めて見直され、中国キャリアの携帯電話の使用に対する、より一層厳しい取り締まり作戦が展開されるものと思われる。
このような携帯電話は、地域住民の多くが関わる密輸や、脱北して韓国に住む人からの送金に使われ続けてきた。取り締まりを強化されたことで、モノとカネの流入が滞ってしまっている。それらの一部が、ワイロなどの形で保衛部を通じて、国に上納され、国庫を潤してきたのだが、法律の執行を厳しくすればするほど、モノやカネが入って来なくなり、国が貧するというジレンマに陥っている。
(参考記事:韓国在住の脱北者、手数料高騰で北朝鮮への送金控える)