北朝鮮体育省が運営するウェブサイト「朝鮮体育」は6日、同国オリンピック委員会が3月25日に開いた総会で、7月に開幕予定の東京五輪・パラリンピックに出場しないことを決定したと明らかにした。
記事によれば、同委員会は「悪性ウイルス感染症(新型コロナウイルス)による世界的な保健危機状況から選手たちを保護するため、委員たちの提起により、第32回オリンピック競技大会に参加しないことを討議決定した」という。
北朝鮮が東京五輪に不参加としたこと自体は、十分に予想されていたことであり、驚くには当たらない。何しろ同国は、新型コロナウイルス対策で国境を封鎖し、貿易も停止。国内では都市封鎖(ロックダウン)を乱発し、食糧確保が間に合わなかった人々が餓死する事態となっている。そのような状況で、多数の選手団を出入国させる判断はできないだろう。
一方、この発表には不可解な点もある。先月25日に決定したものを、どうして10日以上も経って公表したかということだ。
この点を分析する上で手掛かりになるのが、金正恩総書記の妹・金与正(キム・ヨジョン)氏の動静だ。金与正氏は同30日、北朝鮮の国防科学院が行った弾道ミサイル発射実験に対する文在寅韓国大統領の発言を非難する談話を発表した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そして、この談話を伝えた北朝鮮メディアは、彼女の肩書を朝鮮労働党中央委員会宣伝扇動部の副部長としていた。金与正氏は2019年12月以降、党組織指導部に籍を置いていると見られていたが、今回の談話により党宣伝扇動部の所属であることが明らかになった。
党宣伝扇動部は、国内での思想統制や対外的な政治宣伝、心理戦などを担当する部署であり、同国のあらゆるメディアの運営方針を決定する。東京五輪不参加に関する発表のタイミングも、同部で決定されたと見てまず間違いない。
また金与正氏は、昨年6月に脱北者団体の対北ビラ散布に反発して南北共同連絡事務所を爆破したことに見られるように、主として対韓国の強硬路線を主導する役割を担ってきた。北朝鮮で対韓国を担当するのは党の統一戦線部だ。そして、統一戦線部は対日戦略も担当している。
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つまり、金与正氏は金正恩総書記の妹として所属や肩書を超越した役割を担いながらも、主には統一戦線部の担当分野を活動のフィールドとしているように見えるのだ。
そして、北朝鮮が東京五輪不参加を明らかにした6日、日本政府は13日に期限を迎える北朝鮮への独自制裁を2年間延長すると閣議決定した。制裁延長の決定に、五輪不参加をぶつける形となったわけだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面だからといって、日本政府の制裁延長の決定が揺らぐわけではない。ただ、こうした動きにより、日朝間の「溝」の深さが浮き彫りになった部分はある。安倍政権の後継である菅政権は、日本人拉致問題の解決を課題としている。菅義偉首相にどれだけやる気があるかは別として、迫る総選挙対策としても、北朝鮮との対話の糸口は欲しいところだろう。
しかし、制裁延長に五輪不参加をぶつけた北朝鮮の動きは、日本との対話に関心がないことを言外に表明したに等しい。もしかしたら金与正氏は今後、対日非難でも先頭に立つつもりかもしれない。
ちなみに、北朝鮮国営の朝鮮中央通信は昨年1月24日、同国の女子卓球団体チームがポルトガルで行われた大会での成績により、東京五輪への参加資格を得たと報道していた。少なくともこの時点までは、五輪参加に関心を持っていたようだ。情勢次第では、五輪が日朝対話の糸口になる可能性もゼロではなかったということだ。