「金正日時代は良かった」北朝鮮の元軍人ら、金正恩に不満

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北朝鮮の首都・平壌は、誰もが自由に住めるところではない。審査を受けて成分(身分)や思想に問題がないと判断された者だけが居住を許され、何かの間違いを犯したら、平壌で生まれ育った人であっても、追放されてしまう。金正恩総書記の住む革命の首都は、犯罪も病気もない「無菌状態」で保たれなければならないのだ。

そんな平壌に居住する特権を得られる人々の中に、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)で規定年数以上を勤務した軍官(将校)とその家族がいる。しかし、決して恵まれた暮らしをしているわけではないようだ。

平壌のデイリーNK内部情報筋によると、かつて彼らは良い暮らしができていたものの、金正恩氏が政権の座についてからは待遇が悪化した。

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本来なら手厚い老後保障を受け、悠々自適の生活を送っているはずだった除隊軍官たちは、国からの年金だけでは生活が成り立たなくなり、商売をしながら生きていくしかないのだ。

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各地域の市場には必ず市場管理員がいて、商人が違法なものを販売したり、価格を不当に釣り上げたりしないかを監視している。ところが、平壌市人民委員会(市役所)の商業部が今年3月に取った措置が、問題を生んでしまった。

北朝鮮は最近、市場への統制を強化し、国家主導型の経済への移行を進めようとしているが、その一環として朝鮮労働党員の除隊軍人、つまり兵役を終えた一般の兵士を多数送り込むように指示を下した。

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元は部下だった若造から、あれこれ口出しされるのは、ただでさえプライドの高い除隊軍官にとって面白いわけがない。指示や統制に従おうとしないため、トラブルに発展してしまった。

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報告を受けた中央党(朝鮮労働党中央委員会)は、区域の党委員会や市場管理所に、問題のある除隊軍人の動向を探るよう指示を下した。すると、「軍で長年勤めたところで『犬の餌にドングリ』(のけ者の意)だ」「やはり市場でカネを稼ぐしかない」などと嘆きつつ、「金正日総書記の先軍政治時代の方が待遇が良かった」などと、不満をもらしている実態が明らかになった。

情報筋も、除隊軍官のそんな声に同意しつつ、背景を説明する。

「先軍時代には、除隊軍官は優先的に良い職業を与えられ、新築の家の割り当ても受けた。絶糧世帯(食糧が底をついた世帯)が発生しないよう、配給と生活費が無条件で保証されていたのに、今はそうでないので、不満の声が出た」

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これに対して中央党は「市場の売台(ワゴン)に座って物を売れるということは、まあまあの暮らしができているということなのに、それにもかかわらず反党的な発言が出るのは、思想的に問題があるからだ」として、処分を下した。

中央党組織指導部の指示を受けた平壌市人民委員会行政課は、問題発言が確認された除隊軍官30人に「党的な措置による地方配置」という配置状(辞令)を突きつけた。転勤という形を取った、平壌からの追放だ。

当局は、相手が除隊軍官ということもあり、夫婦ともに平壌出身なら中部地方の都市に、どちらか一人が地方出身なら、中国との国境に接した4つの道以外で、親戚の多い地方に送り込むという配慮を行った。

処分におとなしく応じた除隊軍人に対しては、引越し準備が完了するまで平壌に引き続き住めるように猶予期間を与えたが、反発した一部の除隊軍人に対しては、平壌に戻れない「不順異色分子」扱いにして、より強力な「追放」の処分を下した。

彼らは3月第2週のある日の夜に、トラックに荷物を放り込まれ、平壌から遠く離れた山奥の協同農場送りとなった。管理所(政治犯収容所)送りにするときと同じ手法を使ったということだ。また、子どもが平壌に残っていれば、密かに戻ってくるかも知れないとして家族全員が追放された。かくして、約100人が平壌から追放された。

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さらに、本人らが持っていた違法な携帯電話を没収し、本人名義で登録された携帯電話の所有だけを認めた。これは、携帯電話を監視、盗聴して徹底的に不満を遮断するという意味合いを持つ。

平壌在住の除隊軍官の間では「地方配置でも追放でも結局は地方で住むことになるのだから、追放に変わりない」「出党(労働党からの除名)ではないだけで、永遠の革命化
(下放)だ」と、当局の措置を批判する声が上がり、口さがない者は、1960年代の在日朝鮮人の帰国事業「民族の大移動」をもじり、「民族の大追放」などと皮肉っているという。

除隊軍官の処遇を巡っては、軍隊勤務30年以上なら平壌在住資格を与えるという規定を、35年に変更し、それに満たない者を平壌から追放する措置を取り、強い反発を買っている。

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