コロナ鎖国による著しい食糧難に苦しむ北朝鮮では、庶民が栄養失調や餓死を免れようと必死になっている。いくら新型コロナウイルスの国内流入を防ぐと言っても、食料供給の中国依存度が高い北朝鮮が、貿易を停止するのは愚策中の愚策だ。その影響を受けているのは人間だけではない。
平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、北朝鮮の農業に欠かせない牛が、飼料不足で次々に死んでいる状況を伝えた。
情報筋は、平安南道農村経営委員会が行った調査結果を元に、道内の農場で先月だけで牛120頭が死んだと伝えた。死因としては栄養失調が75%を占めた。寒い冬の期間中に充分な飼料と干し草を与えられなかったということだ。
(参考記事:「禁断の味」我慢できず食べた北朝鮮男性を処刑)
一般論として、牛は気温が下がると、飼料を大量に食べてそのエネルギーで新陳代謝を促進させ体温を維持しようとする。寒さが続けば、飼料を食べる量が増える。しかし、おりからの食糧難で飼料が充分に与えられず、体力が維持できなくなった牛は栄養不足に陥り、免疫力が下がって死に至る。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面農場では、生き残った牛に食用として飼われている犬の肉に加えて、猫の肉やコメやカボチャの入った粥を食べさせるなど大わらわだが、地域住民は「牛を失ってから牛小屋を直す」(泥縄、後の祭りの意)と嘲っているという。
(参考記事:北朝鮮、コロナ対策で「ネコ抹殺令」…従わねば人間も危ない)農場がこれ以上、牛を死なせないまいと必死になっているのは、農耕に使う牛は国家財産である生産手段の扱いだからだ。
許可なく牛を売り飛ばしたり食べたりすることは政治犯扱いされるほどの重罪だ。昨年11月には、咸鏡北道(ハムギョンブクト)穏城(オンソン)の協同農場で飼われていた牛を盗んで食べた男性が、反革命行為に問われ処刑されている。事故や飼育状態の不良で死なせた場合でも、管理責任者が罪に問われる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面農耕用の牛がいなくなれば、国から課せられた農業生産のノルマの達成も難しくなる。それを恐れた人々は、他の農場から牛を盗み出している。
平安南道の別の情報筋は先月、牛を盗み出そうとして摘発された事例が10件を超えると伝えている。
一例を挙げると、首都・平壌郊外の平城(ピョンソン)市の下次(ハチャ)農場の作業班長は、農場員に対して牛を盗んでくれば報酬に50キロのトウモロコシをやるとけしかけたが、その話を真に受けて牛を盗もうとした農場員が逮捕され、処罰を受けた。北朝鮮刑法の91条(国家財産略取罪)は、国家財産を盗んだ者は1年以下の労働鍛錬刑(懲役刑)に処すと定めている。
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盗まれるのは牛だけではない。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の情報筋は昨年10月、農場から国家財産扱いの高麗人参がすべて盗まれるなど、1ヶ月間で国家財産が盗まれる事件が全国的に10数件起きていると伝えた。
(参考記事:北朝鮮「国家財産」盗まれ大問題…コロナ禍で食い詰め深刻)