慢性的な肥料不足に苦しめられる北朝鮮にとって救世主になるはずだった、平安南道(ピョンアンナムド)の順川(スンチョン)燐酸肥料工場。
金正恩総書記が昨年5月、その竣工式に出席したことを国営メディアが喧伝したが、実は式に合わせて外見だけ完成させたことが、デイリーNKの現地情報筋の報告で明らかになっている。
(参考記事:金正恩氏、未完成の工場で「テープカット」か…20日ぶり健在アピール)竣工式と操業開始の順番が入れ替わるのはよくあることで、これだけでプロジェクトそのものが失敗したと断定するにはまだ早い。しかし今月3日、工場で建設、管理などを任されていた60人が一斉に逮捕されるに至り、その行く末を案じる声は高まるばかりだ。
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デイリーNKの現地情報筋によると、中央党(朝鮮労働党中央委員会)のイルクン(幹部)は最近、肥料工場で現地調査を行った。竣工式から10ヶ月近く経っても、一向に稼働しない原因を調べるためだ。その結果、内装、外装とも未完成の部分が相当数に達することが判明した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面壁面の窓ガラスは二重にするように設計されていたが、一重になっていたり、最初から設置されていない所も多かったり、といった具合だ。セメントを塗ったところもデコボコで、塗られていない所すらあるなど、大々的な手抜き工事が行われたことを示す証拠が次から次へと発見された。
平安南道安全局(県警本部に相当)は、工場の幹部20人を逮捕した。幹部らは取り調べを受け、起訴前の予審の段階にある。中央党は、金正恩氏が竣工式に参加し、完成を国内外に宣言した工場で大規模な手抜き工事が行われ、未だ稼働ができていないことを重く見て、特に責任の重い者は教化所(刑務所)送りにしようとしていると、情報筋は伝えた。
ただ、最高指導者の権威を毀損し、恥をかかせることは北朝鮮では重大犯罪に当たる。懲役刑で済まされればマシな方で、処刑になってもまったく不思議ではない。
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また、実際に建設にあたった突撃隊員(半強制の建設ボランティア)40人も逮捕され、既に労働鍛錬刑(懲役)3ヶ月の判決が下された。
北朝鮮では、国営の工場、企業所、農場からの資材の横領、横流しが蔓延し、その結果として手抜き工事が行われることも少なくない。今回の件もその類かと思いきや、どうやら違うようだ。現場の状況をよく知る人々の間からは、60人もの大量逮捕について疑問の声が噴出している。
稼働開始の遅れは、手抜き工事ではなく、設備と資材の不足のせいで、国が適切な予算配分を行わなかったところにあるというものだ。
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しかし、公開の場で大見得を切った金正恩氏の顔に泥を塗るようなことはあってはならないため、幹部や突撃隊員がそのスケープゴートになったというのが、現地の見方だ。「最高指導者は無謬の存在で、失策はその命令どおりに実行できなかった幹部の責任」というのが、北朝鮮がよく持ち出す理屈だ。
当局は、工場のラインを1つでも、1日でも早く稼働させるための措置を行えとの指示を下し、咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸興(ハムン)の興南(フンナム)肥料工場にあった機械を移動させる作業を行っている。最高指導者の権威を保つために無駄な作業を強いられている。
「リン肥料は中国から原料を輸入してこそ正常な生産ができるが、国産の原料を使ってでも試験的に生産をしてみろということだ。竣工式から1年が経つ前に是が非でも生産にこぎつけろというのが党の命令だ」(情報筋)