人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

北朝鮮の国境都市で、ロックダウンが突如として始まった。もう4度目だ。

中国との国境に接する両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)に対して、今月3日、緊急の封鎖令(ロックダウン)が下された。あまりに突然のことで、市内は大騒動となった。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、3日午後3時30分、市内の人民班(町内会)、機関、国営の工場、企業所を通じて、当日の午後6時から「一切の移動を禁止し、1ヶ月間都市を封鎖する。すぐに帰宅せよ」との布告が下された。

洞(日本の町に相当)の境界線上にある哨所(チェックポイント)では、住民に帰宅を急がせるために、身分証などのチェックを行わずに通過させる措置を取った。隣接する普天(ポチョン)郡との境界線では、道党(朝鮮労働党両江道委員会)宣伝部の街宣車が「今(市外に)出ると帰ってこれない」「すぐに家に戻れ」と緊急宣伝活動を行った。

突如として下された封鎖令に、市民はあたかも戦火から逃れるかのごとく、先を争い大慌てで帰宅した。そして午後6時。市内では外出が一切禁じられ、出勤もできず、市場も閉鎖された。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

恵山では昨年8月と11月に続き、今年1月29日にも1ヶ月の予定で封鎖令が下されたが、18日目に解除された。この経済難の中で、あらかじめ1ヶ月分の食糧を備蓄できる経済的余裕がある人は限られ、多くの住民が食べ物を求めて外出し、逮捕される事態となった。市民の不満が抗議活動や暴動につながりかねないと当局が恐れ、早期に解除されたものと見られている。

(参考記事:北朝鮮、1カ月の都市封鎖を18日で終了…背景に市民の不満

それから1ヶ月足らずで、市民の不満を承知で4度目となる封鎖令が下されたのは、密入国事件が起きたからだ。

脱北していたある住民が、今月1日に密かに国境を流れる鴨緑江を渡って恵山に戻った。国境警備隊に見つからないように、市内某所で息を潜めていたが、翌日に「不審者がいる」と人民班から通報があり、逮捕に至った。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

事件の報告を受けた中央は、単純な密輸や脱北ではなく、重大な密入国事件とみなし、国家保衛省(秘密警察)と非常防疫委員会のイルクン(幹部)5人を現地に派遣。3日午前0時に、両江道と恵山市の朝鮮労働党委員会、保衛部(秘密警察)、安全部(警察署)、検察所、裁判所、防疫所の担当者と共に、封鎖令実施に関する非常防疫拡大執行会議を開かせた。

地元の組織からは異論が相次いだ。情報筋は、地元幹部の家族の話として、会議の内容を次のように伝えた。

「会議で道党と市党(朝鮮労働党恵山市委員会)のイルクンたちは、恵山を再び封鎖すれば住民がさらに疲弊し、餓死が続出するかも知れないと懸念の声を上げた。しかし中央からやって来たイルクンは、恵山で密入国事件が起きたのは今回が初めてだとして、いくら辛くても封鎖しなければならないと強く主張した」

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

結局、地元組織が押し切られる形で封鎖令の実施が決まり、中央の承認を得て、3日午後に封鎖令の布告が下されたという流れだ。

昨年8月の封鎖令は、中国で新型コロナウイルスの陽性判定を受けた1人を含む、女性3人が鴨緑江を渡って密入国したことがきっかけとなった。越境地点は、恵山から少し離れた三池淵(サムジヨン)だったが、恵山も封鎖されている。

(参考記事:「死ぬなら故郷で」…北朝鮮「中国で陽性判定」の女性を銃殺か

以前の封鎖と今回の違いは何か。

「保衛部幹部の家族の間では、密入国した人が単純な非法越境者(不法入国者)ではなく、越南逃走者(韓国に行った脱北者)だったという噂が流れている」(情報筋)

恵山から遠く離れた、軍事境界線を挟んで韓国と接する開城(ケソン)では昨年7月、脱北して韓国で3年暮らしていた20代男性が密入国していたことが発覚し、開城に対して封鎖令が敷かれた。今回は、このときと同じ扱いなのではないかと噂されている。つまり、出稼ぎなどの理由で脱北して中国にいた人と、韓国で暮らしていた人では、同じ密入国事案でも重大性が異なるということだ。

食糧不足に陥った開城市民に対しては、金正恩総書記の名前で特別支援物資が送られた。

(参考記事:コロナ封鎖の北朝鮮・開城で食糧配給…当局、市民の不満に緊張

一方、恵山や三池淵、西隣の慈江道(チャガンド)の満浦(マンポ)、慈城(チャソン)に対しては、度重なる封鎖令にも食糧援助はほぼなく、餓死者が相次いでいる。

満浦と慈城ではそれぞれ約100人ずつの餓死者が発生。その中には、社会的に地位が高いとされる朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の軍官(将校)の家族が含まれていたことから、市民の間に動揺が広がり、早期の封鎖解除へと繋がった。

(参考記事:「忠誠を尽くしたのに…」国家に妻子を殺された北朝鮮軍人の叫び

今回の封鎖に際して、当局からの食糧援助があったのか否かについて、情報筋は触れていない。なお、逮捕された密入国者は現在、両江道保衛局の勾留場に隔離された状態で、国家保衛省のイルクンの取り調べを受けている。