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「ある人々は、<秀才論>まで持ち出して、才能のある人々には本だけ読ませなければならないと言います。最初から特殊な才能を持った秀才がいるわけではありません…私たちは秀才論に反対します」

これは、1968年3月14日に金日成主席が、「教育部門イルクン(幹部)たちの前で行った演説」の一節だ。教育における平等を強調する一方で、「ナイーブなエリートは革命の役に立たない」との彼の考えが反映されたものと言われている。そのため、エリート教育は外国語や芸術、スポーツなどの特殊分野に限られていた。

ところが、金正日総書記の考えは違った。1984年7月22日の全国教育イルクン熱誠者大会で行った演説で、英才教育の法的土台を作ると宣言し、同年9月には平壌第1中学校、そして翌年には各道の道庁所在地に第1中学校を設立した。学校の序列化、家庭教師などの私教育などの弊害が現れ、北朝鮮に「お受験」ならぬ「汚受験」が広まる要因のひとつになった。

2003年には最高学府・金日成総合大学の試験問題が流出する事件が起き、関係者が処罰されたが、今では当たり前のように試験問題が裏で取り引きされるようになった。晴れて入学を果たしても、教授への付け届けなど、様々な名目のカネが必要となる。これが「教育は無償」を謳う北朝鮮の現実だ。

(参考記事:試験問題がおおっぴらに取引される北朝鮮の「汚受験」

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の「ナンバースクール」、第1中学校も例外ではない。現地のデイリーNK内部情報筋によると、同校は昨年12月、中央党(朝鮮労働党中央委員会)の検閲(監査)を受けた。

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中央党から派遣された人員は先月初旬、検閲に先立ち、在校生に試験を受けさせた。そして、成績のよくない生徒が多数在籍していることを確認した上で、そんな生徒が多いことそのものが問題だとして、検閲に踏み切った。すると、次から次へと裏口入学の証拠が見つかった。

一例を挙げると、穏城(オンソン)郡安全部(警察署)の経済監察課長は、カネと権力を使って、息子を第1中学校に入学させていたことが判明。党の人材養成政策を妨害したとして、先月23日に解任、撤職(更迭)された。

また、第1中学校が毎年、「特例」として複数の生徒を選抜し、入学させていたことも暴き出された。学校側の釈明は、学校運営に必要な資材を購入するためというものだった。つまり、「金づる」が必要だったということだ。しかし、中央党は釈明を一蹴した。

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入試不正に関連した教職員への処分はまだ下されていないが、無事ではいられないだろうというのがもっぱらの噂だ。

幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)がなぜ子弟の第1中学校入学にこだわるのか。そこには、少しでも良い教育を受けさせたいという親心以外にも、こんな事情があった。

「良い大学に入る足場にもなり、10年の兵役を3年に短くする最善の方法となっているからだ」(情報筋)

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すべての北朝鮮国民は、満17歳になれば徴兵検査を受ける。一般の中学校に通う生徒は、卒業すれば軍に入隊し、世界最長と言われる10年もの兵役に服さなければならない。務め上げれば、朝鮮労働党入党、大学入学の推薦をしてもらえるなどのメリットがあるが、施設の整っていない山奥の基地で「飢え」という難敵との戦いを強いられ続け、栄養失調になる兵士も続出、生きていくために盗賊のような真似をさせられたりもするなど、デメリットのほうがはるかに多い。

(参考記事:食糧配給激減の方針で北朝鮮軍に衝撃走る

一方で第1中学校に入れば、卒業後すぐに大学に入学でき、兵役は3年に短縮され、幹部への道も開ける。金を積んででも、息子を第1中学校に入れようとするのは、親心の発露であると同時に、経済合理性に叶った行為でもある。

不正発覚との関連は不明だが、今年の第1中学校の入学試験は、まず区域や郡で一次試験を受けさせ、上位2〜3人だけに2次試験を受けさせる形となり、例年にも増して熾烈な入試競争が行われている。検閲を受けた直後とあって、さすがに裏口入学を斡旋する学校関係者はいないだろうが、ほとぼりが冷めれば、元の木阿弥となるだろう。

(参考記事:北朝鮮の名門幼稚園「汚れたお受験」に見るあの国の本当の姿