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北朝鮮には「集団配置」という制度が存在する。兵役を終えた人々を、特定の地域、職場に集団で強制的に送り込むもので、兵役が形を変えて死ぬまで続くようなものだ。

行き先は、国としては労働力が必要だが、誰も行きたがらないようなところ。運悪く選ばれてしまった人は、苦しい生活を強いられるだけにとどまらず、予定していた結婚が破談になったり、配偶者から三くだり半を突きつけられたりと、散々な目に遭う。

(参考記事:運命は金正恩のさじ加減ひとつ…飢え死に目前のタバコ農場

さて、あらたにその犠牲になったのは教化所(刑務所)の出所者だ。慈江道(チャガンド)のデイリーNK内部情報筋が、現地の状況を詳しく伝えている。

朝鮮労働党中央委員会は昨年11月、次のような指示文を下した。

2020年6月以降の教化所出所者のうち、20歳以上60歳未満に該当する者たちは、すべて地方の農村の農場員として配置せよ。

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この指示の対象となるのは、元々慈江道に住んでいた人々で、指示は社会安全省(警察庁)、慈江道安全局(県警本部)を経て各市、郡の安全部(警察署)、教化所教化課に伝えられ、さっそく実行に移されている。

教化所は出所対象者を出所させず、「満期房」という部屋に収容し、行き先となる農村が決まるまで収監され続ける。その間に個別面接を行い、黄海北道(ファンヘブクト)、平安南道(ピョンアンナムド)、咸鏡南道(ハムギョンナムド)に家族や親戚がいるかを確認し、いればその地域の農村に、いなければ適当に割り当てた農村に送り込まれる。

また、元々住んでいた地域の安全部の住民登録課は、昨年6月以降に出所して自宅に戻って暮らしていた人々を割り出し、住民登録に「居住退去」と明記して、農村に追放する措置を取っている。

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今回の措置の直接的な理由は、昨年6月以降に出所した人々の中で、当局が禁止している焼畑農業を行ったり、義兄弟の契りを交わして反社会的な行為を行ったりするなどの問題が提起されたことによるという。

「先軍革命特別地区で第2の首都と呼ばれる慈江道の精神、思想状態が徐々に乱れつつあるとの指摘に基づき、今後は罪を犯した慈江道の住民は他の地域、それも農村に配置して、慈江道を健全な地域にするというのが党の意図」(情報筋)

一種の「浄化作戦」と言ったところだが、それ以外にも、より根本的な原因が存在する。

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農業省が一昨年行った調査で、全国のほとんどの農場で労働力が不足していることが判明し、金正恩党委員長は昨年2月、「協同農場地域居住住民をすべて農場所属の農場員に転換し、農場の労働力を補充せよ」との指示を下した。これにより、農村の近所に住んでいるという理由だけで、勝手に農民にされてしまう人が続出した。

また、当局は昨年9月、朝鮮労働党創立75周年を迎え、大赦(恩赦)を実施したのだが、首都・平壌出身で釈放された人々を、平壌に戻らせず、地方の農村に送り込んだ。

(参考記事:「恩赦はするが農村に追放」に北朝鮮の受刑者たちが激怒

農民の暮らしはただでさえ貧しい上に、コロナ禍で生活苦に拍車がかかり、農場から逃げ出して働きに出る人が後をたたない。農業機械化の遅れている北朝鮮の農場では、人口の減少は農業生産の減少に直結するため、当局は農村の人口を減らすまいと必死になっているということだ。

(参考記事:コロナ不況で食い詰めた人々が目指す北朝鮮の「黄金郷」

浄化作戦と労働力補充を兼ねた今回の作戦だが、早速抵抗に遭っている。社会的に身分が低いとされ、死ぬまで貧しい暮らしを強いられることを嫌い、脱北を試みる事件が起きた。

20代と30代の2組の夫婦が、親戚も知人もいない山奥の農村に送り込まれることを恐れたあまり、逃走を図り、中江(チュンガン)郡から国境を流れる川を渡り、中国に逃げ込もうとしたが、運悪く警備にあたっていた特殊部隊「暴風軍団」に見つかり、銃撃され、4人ともその場で死亡した。

慈江道安全局は、既に釈放されている人の逃走を防ぐために、大慌てで農村に送り込む作業を進め、今月3日までに完了させた。

銃声を聞いて驚いた近隣住民の間では当初、「こんなときに脱北するなんて」などと、逃げた方が悪いという意見が交わされていたが、農村への集団配置の話を聞いてからは「かわいそうだ」「気の毒だ」と反応が変化した。また、今後は教化所送りにでもなれば、奥地の農場に送り込まれると震え上がっている。