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北朝鮮やロシア国境にほど近い、中国吉林省の延辺朝鮮族自治州の汪清県。農業と林業がさかんで、人口24万人のうち、約3割を中国朝鮮族が占める。そんな田舎町を震撼させる事件が起きた。

地元でも指折りの大金持ち、恒信建築安装有限責任公司の幹部を務める蔡寛錫さん夫婦と、22歳の息子、16歳の娘の一家4人が6月18日の明け方、無残にも殺害されたのだ。生き残った家政婦も、重傷を負った。

「6.18汪清特大殺人案」と呼ばれるこの事件、その衝撃は大きく、吉林省長(知事)、中国共産党の延辺朝鮮族自治州書記、吉林省公安庁長(県警本部長に相当)の指揮の下、180人が捜査に乗り出した。7月24日、容疑者1人が県内で逮捕された。その翌日に、他の3人がマカオに面した広東省の珠海、そして山東省の青島で逮捕された。

犯行グループは、男性3人、女性1人からなり、夫婦と、17歳の未成年も含まれ、中国社会を驚愕させた。彼らはカネ目的で蔡さん宅に押し入り、抵抗されたため、家族4人を殺害した。

犯人逮捕に繋がる重要証言をした脱北女性

容疑者逮捕に至る重要な証言を提供したのは、蔡さん宅で家政婦として働き、唯一生き残った40代の脱北女性、高さんだった。

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蔡さん家族と親しかった地元在住のイムさんは「昨年春に、蔡さん宅に家政婦としてやってきた、蔡さんは高さんの家事をよくこなすと褒めていて、月給もきちんと支払い、家族のように接していた」と証言した。

高さんも犯人の1人に刃物で刺されたが、犯人の手に噛み付くなど激しく抵抗し、一命はとりとめたものの、出血多量で3日間は死の淵をさまよった。

公安当局は当初、そんな高さんを、他の脱北者を引き入れて犯行を主導した有力な容疑者として、激しく追及したという。

潜在的犯罪者扱いされる脱北者

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延辺の公安当局は、地元で凶悪事件が起きるたびに、まずは脱北者の仕業ではないかと疑うという。脱北者の犯罪者が中国人より高いからではない。中国政府は、脱北者を難民ではなく、経済目的の不法滞在者とみなし、摘発し次第強制送還するため、脱北者はたとえ事件の被害者であったとしても、送還を恐れて現場から逃げてしまう。そのせいで、あらぬ疑いをかけられることが多いのだという。

実際、公安当局が事件が発生し、捜査が難航した場合、とりあえず市中での職務質問を強化し、脱北者を捕まえようとする。現地の人々は「殺人事件が起きるたびに、脱北者が数十人が北朝鮮に送り返される」と口を合わせる。

高さんも、もし出血多量で意識を失わなければ、現場から逃げていただろう。あわや「脱北者集団による凶悪犯罪の主犯」にされるところだったのだ。

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公安当局の保護を受けつつ治療を受け、健康を取り戻しつつあるというが、裁判が終われば北朝鮮に強制送還される運命にある。行くあてもなくさまよっていた自分を雇い入れてくれた蔡さんに、命をかけて恩返しをした彼女を待ち受けているのは、北朝鮮の収容所だ。