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北朝鮮の物価変動は、季節的な要因が大きく作用する。この時期は、燃料用の石炭や薪、キムジャン(越冬用のキムチ大量漬け込み)に使う白菜、トウガラシの値段が上がる一方で、収穫期を終えた穀物の値段は下がる。ところが、今年の状況は例年とは多くの部分で異なる。

北朝鮮当局は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため非常に厳しい統制を敷いている。これが影響し、国内での商品流通が滞っている。また、国境封鎖で中国から商品が入荷しなくなったことに加え、相次ぐ台風被害で穀物生産にも深刻な打撃が出ている。そんな状況で、物価が急上昇しているのだ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、保衛部(秘密警察)、安全部(警察)による統制に加え、来年1月の朝鮮労働党第8回大会に向けて行われている大増産運動「80日戦闘」のせいで、小規模な密輸すらできなくなり、国境沿いの町の物価が急騰していると伝えた。

穏城(オンソン)、茂山(ムサン)など国境沿いの町では、物価が最高で9倍も上がり、市民はあっけにとられ、戸惑いを隠せずにいるという。手広く商売をしている商人は、商品価格が上がることを期待して売り惜しみしており、市場に姿を見せないことすらある。消費者は、市場に行っても何も買えずに手ぶらで帰らざるを得ない。

また、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の羅先(ラソン)の情報筋は、小商いをしてその日暮らしをしている人々は、80日戦闘に追い立てられ商売ができなくなり、トウモロコシ粥で空腹をしのいでいる状況だと伝えた。

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コロナ感染を疑わせる事例や脱北事件により、国境沿い一帯には封鎖令(ロックダウン)が敷かれていたが、その影響もあるものと思われる。

(参考記事:北朝鮮軍「コロナ集団感染」か…任務中の兵士がバタバタと

両江道(リャンガンド)のデイリーNKの情報筋は10月末、商人が商品の値段を釣り上げることに対して市場管理所が「価格を上げれば商品を没収する」と警告したことに加え、コロナ禍で消費心理が萎縮しきっていることから、商品が全く売れないため、物価が下落に転じたと伝えた。同様の措置が咸鏡北道でも行われていたとしても、一時的な効果しかなかったということだろう。

2009年の貨幣改革(デノミネーション)の後に起きたハイパーインフレに対して、当局はより強硬な対策を取っている。商人に対して品物を国定価格で売るように命じたが、従えば大損するため、商人は売り惜しみで対抗した。

(参考記事:【北朝鮮国民インタビュー】貨幣改革で大混乱「もはや何も信じられない」

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当局は、商人を見せしめで銃殺にして事態の収拾を図ったが、それだけでは収まらず、このときの混乱は長年続くこととなった。

(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた

餓死者の発生は各地から伝えられているが、茂山でも同様の状況のようだ。

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11月24日、茂山駅前では家族と思しき4人が、川の字になって寝転がったまま死んでいるのが発見された。何らかの事情で家を出て、飢えと寒さで亡くなったものと思われる。安全部から連絡を受けた郡の機動巡察隊は、遺体を布にくるんでどこかへと運んでいったという。

「茂山駅の安全員(警察官)の話では、駅前周辺には寒さと飢えで泣く子どもの声が絶えず響き渡っている。食べ物を求めて穏城から内陸に向かおうと、無賃乗車していた一家6人が捕まり、家に帰される途中で車内で餓死した」(情報筋)

朝鮮労働党の咸鏡北道委員会も各郡の委員会も、庶民の窮状を知りつつも対策を打ち出せず、「80日戦闘が終わるまで、もう少し我慢しよう」と繰り返すばかりだという。

「時間が経てば少しは状況がよくなるかと思っていたが、暮らし向きは坂を転がるように悪くなっているのに、80日戦闘が終わっても何の関係もない」(情報筋)

(参考記事:3家族が全滅、孤児院も…北朝鮮「封鎖都市」で餓死続出の断末魔

一方で、米ドルや中国人民元などの外貨を持つトンジュ(金主、新興富裕層)やトンデコ(両替商)は、下手に外貨を市場に流せば損をすると考え、通貨の流通も滞ってしまっている。物価が高騰する上に、北朝鮮ウォンの対ドル、元相場が乱高下している状況で、試算を外貨で保有し続けることで聞きを乗り越えようというのだろう。

彼らに外貨を吐き出させるために、政府は公債を発行したが、トンジュは無理やり買わされるのを避けようとし輸入品の買い占めやドル買いに走り、経済が混乱する結果を生み、計画は途中でストップしてしまった。

(参考記事:北朝鮮、財政難打開の秘策「公債発行」が中断