北朝鮮・咸鏡北道(ハムギョンナムド)南部にある花台(ファデ)郡。全く無名の地域だが、ムスダン(舞水端)、テポドン(大浦洞)など、世界的に知られるミサイルの発射基地のある軍事的に重要な地域だ。
(参考記事:【画像】「炎に包まれる兵士」北朝鮮 、ICBM発射で死亡事故か…米メディア報道)
そんな地域でも、自然災害は避けられない。今年上陸した3つもの台風は、朝鮮半島全体に深い爪痕を残したが、花台郡でも大きな被害が出た。それをいたわり、金正恩党委員長は住民らに「贈り物」を下賜した。
この「贈り物」は北朝鮮において非常に重要なものだ。高級幹部には海外ブランドなどの超贅沢品を、一般庶民には肉、油などのちょっとした贅沢品を金正恩氏の名前で贈り、忠誠心をつなぎとめるというものだ。前近代に、国王が配下に領地や贅沢品を贈り、忠誠心をつなぎとめたの同じことが、北朝鮮では未だに行われているのだ。
その「贈り物」をめぐり、ネコババ騒ぎが起きていると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面金正恩氏の名前で被災者に送られてきたのは、毛布2枚、食器、服の生地、トイレットペーパー、テレビ1台などをセットにしたもので、ほとんどが中国製だった。
朝鮮労働党の中央委員会、咸鏡南道委員会、花台郡委員会のイルクン(幹部)が、郡民に配給を行ったのだが、どういうわけか、一部の特定の被災者にしか配られなかったことがわかり、騒ぎとなった。
情報筋の説明はこうだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「贈り物の明細表に応じて、すべての被災者1世帯あたりに贈り物1セットを贈ったのではなく、品物をバラバラにして、配給した」
つまり、テレビだけ受け取った被災者もいる一方で、トイレットペーパーしか受け取れなかった被災者もいたのだ。それも、テレビを受け取ったのは郡や里(村)の幹部ばかりというではないか。トイレットペーパーだけでも受け取れただけでまだマシで、何一つもらえなかった人すらいたという。
つまりは熱誠党員(貢献のあった党員)やイルクンが良い品物を独占し、一般庶民にはありふれたものを押し付けた。当然のことながら、住民は怒り心頭だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「元帥様(金正恩氏)が贈り物をくださったときには、住民を差別していなかったろうに、下で働くイルクンが元帥様の愛を差別して配給する」
「労働者はいくら熱心に仕事をしても、幹部になれず恨めしく、党員にもなれず恨めしい」
「幹部と党員の方が台風被害がひどかったとでも言うのか」
金正恩氏が人民愛をアピールしようとしたのに、庶民の心情を著しく害する結果となってしまった。
台風の被害で田畑がひどくやられ、今年の農業の収穫には期待できない状況である上に、今回の仕打ちを受け、村々からは嘆きの声が上がっているという。
ネコババ、横領、横流しは北朝鮮の病弊ともいうべき現象だ。幹部と言えども、受け取る給料は雀の涙ほどで、部下からワイロを受け取り、様々な品物をネコババし、不正行為に手を染めてようやく生活が成り立つ。司直の手にかかりそうになれば、コネやカネを使ってもみ消したり、部下に責任をなすりつけたりする。
(参考記事:金正恩氏のコロナ対策失敗で「いけにえ」にされる人々)ところが、それが通じないケースもある。金正恩氏の名前で行われる事業だ。下手に不正を働いてバレでもしたら、金正恩氏の激しい怒りを買い、最悪の場合「首と胴体が分離する」ことになってしまう。幹部の不正行為の摘発キャンペーンが行われている今、花台郡の幹部も安泰ではないかもしれない。
(参考記事:「金正恩資金」のネコババがバレた幹部たちが辿る悲惨な末路)