北朝鮮の首都・平壌は18の区域(日本の区に相当)と2つの郡からなる。その中でも中区域は、金日成広場、朝鮮労働党庁舎、万寿台議事堂など重要施設が集中する北朝鮮の心臓部だ。
そのトップの人民委員長(区長)が、不正行為で逮捕されたと米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。平壌市の幹部が明かしたその容疑とは、不動産の違法貸し出しだ。
人民委員長は昨年2月、稼働していない区域内の工場、企業所の建物と敷地をトンジュ(金主、新興富裕層)に違法に貸し出し、賃料として毎月1500ドル(約15万9000円)を受け取っていた。
別の住民によると、この工場は区内の蓮花(リョンファ)二洞にある。平壌駅にほど近く、統一戦線部、平壌国際文化会館、党創立史籍館、平壌医学大学などが立ち並び、工場などなさそうだが、衛星写真を見ると、工場らしき建物が確認できる。
資材や資金の不足で稼働できなくなった国営工場が、設備や建物をトンジュに貸し出し、生産活動を行わせる例は北朝鮮では珍しくない。工場は運営資金を得ると同時に、対外的に正常操業を装える上に、市場にも商品が供給される。
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しかし今回の場合、人民委員長は工場の経営には関わっていないのに、賃料を着服し私腹を肥やしていた。それを知り怒った従業員が行動を起こしたのだ。
「一銭も月給がもらえず苦しい思いをしていた工場、企業所の従業員が上級機関に信訴した」(市民)
信訴とは不正行為の内部告発制度のようなもので、国家機関などから理不尽な目に遭わされた場合の数少ない救済措置の一つだ。
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それを受けて捜査を行った安全部が、先月29日に人民委員長を逮捕した。逮捕の事実は地域住民、工場、企業所の従業員に知れ渡り、「区民の生活苦を顧みず、私腹を肥やしていた」とさらなる怒りを買っている。
北朝鮮で幹部と言えば、手にした権力、権限を最大限に活用して、地元住民から金品を搾り取るものだが、首都・平壌では少し事情が違うようで、「幹部なのに…」という反応が出ている模様だ。つまり、「幹部は清廉なものだ」というイメージが未だにあるということだ。
首都では厳しい規律が維持されているとともに、他の地域ではとっくの昔に途絶えてしまった配給が行われてきたため、不正行為にまで手を染めなくても生活ができたということだ。それが、国際社会の制裁のあおりで去年から量が減り始め、新型コロナウイルス対策として国境が封鎖された後の今年の3月からは、一般市民はもちろん、幹部も配給がもらえなくなってしまった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面それで区域の人民委員長ですら、違法行為に手を出さざるを得ない状況となったわけだが、幹部の間で様々な形の違法行為が横行し、市民の幹部に対する信頼が崩れ去っったとこの住民は述べている。
「当局の幹部に対する特別配給すら止まり、幹部たちは生活苦と老後に備えて、現役のうちに貯金をしようと様々な不正腐敗を行っている」(市民)
中央も民心の離反を深刻に受け止めているようで、人民委員長に対しては見せしめとして重罰が予想されている。
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