北朝鮮では毎年のように、教化所(刑務所)の受刑者の刑期を短縮したり、釈放したりする大赦(恩赦)を行っている。これは、北朝鮮で「恩徳政治」と呼ばれるものの一環だ。すべての朝鮮人民は、金正恩党委員長というありがたい存在の恩恵を受けて幸せに暮らしており、恩赦を含めたすべての施策は、それが具現化したものであるという考え方だ。
そんな「ありがたい」恩赦が、今年10月10日の朝鮮労働党創立75周年に際して実施されると、デイリーNK内部情報筋が伝えた。
情報筋によると、23日午前、朝鮮労働党創立75周年の大赦の対象者の関連書類を来月10日までに提出せよとする社会安全省(警察庁、旧称人民保安省)教化局の命令が全国の教化所に下された。具体的な日時までは明示されていなかったが、10月に恩赦が行われる可能性が高いと情報筋は見ている。
今回の恩赦で注目すべき点は、人数の制限がないことだ。つまり、相当数の受刑者が釈放される可能性がある。2015年の8月15日の光復(日本の植民地支配からの解放)と、朝鮮労働党創立70周年に際して行われた恩赦では、数千人が釈放されている。
(参考記事:北朝鮮、全国で大規模恩赦を実施…政治犯は対象外)教化所の内外では、詐欺などの経済犯が多数含まれるだろうとの話が出ているが、さらには不法越境、つまり脱北した人たちや密輸に関わった人たちも今回の対象となる見込みだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮は今年6月、金正恩体制を非難するビラを北に向けて散布した韓国の脱北者団体と、それを阻まなかった文在寅政権を激しく非難し、全国で脱北者を糾弾する集会を開催した。その一方で金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長は同月10日、北朝鮮に残った脱北者家族のうち、普段の生活に忠実な者に対しては、物資を届けるなどして激励せよとの指示を下したと、デイリーNKの別の情報筋が伝えている。
つまり、「元帥様(金正恩党委員長)の配慮を極大化して、党の領導を受ける社会主義憲法の雅量と優越性を見せつける」(情報筋)ことで、さらなる脱北を防ごうという意図があるものと思われる。
ただし、密輸や脱北に関しては刑期を7割終え、地域担当の安全員(警察官、旧称保安員)の保証を得られた者に限定するなど、ハードルを高くしている。また殺人、強盗、人身売買など罪状が重い場合には対象から外され、前回の恩赦ですでに減刑されている者に対しては、再度の減刑は認めないという金日成主席の「遺訓教示」により、今回の恩赦の対象外となる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面出所後の移動は安全員が担い、元の居住地に送り届けるが、平壌在住者に関しては平壌に戻さず、教化所が指定した地方に移住しなければならない。平壌では食糧不足が深刻化しており、正式な居住許可を持っていない人が口減らしの目的で追放される事態となっている。
(参考記事:金正恩が焦る平壌の食糧難…解決策は「市民追放」)また、3密状態で新型コロナウイルスの温床となりかねない教化所から出所したばかりの者を、平壌に戻すわけにはいかないということのようだ。北朝鮮は今年4月、恩赦を実施しているが、新型コロナウイルス対策の側面があるとの見方がなされている。
(参考記事:北朝鮮の刑務所で「消える死体」…金正恩氏「恩赦」の裏で何が)