「涙流しながら吐血」北朝鮮の20代女性、拘束中に疑惑の死

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北朝鮮の刑事訴訟法は6条で、国は刑事事件の処理過程で人権を徹底的に保証すると定めている。また166条では、強制的な方法で容疑を認めさせたり陳述を誘導したたりしてはならないとも定めている。

しかし、北朝鮮の保衛部(秘密警察)、安全署(警察署、旧称保安署)に人権尊重を求めるなど、夢物語も同然だ。取り締まりや捜査、取り調べの過程での暴言、暴行、拷問は当たり前で、女性に性行為を強要することすらある。

その暴力が、またひとりの女性を死に至らしめる事件が発生した。関係当局は責任のなすりつけ合いをしている。

(参考記事:手錠をはめた女性の口にボロ布を詰め…金正恩「拷問部隊」の鬼畜行為

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えたところによると、亡くなったのは20代後半の女性、チョンさん。

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新型コロナウイルスの国内流入を恐れた北朝鮮当局による国境封鎖、貿易停止で国内の景気は最悪だ。

「コロナウイルスで国境が閉まり、商売ができなくなってから咸鏡北道では生活苦に陥る人が増えて、コチェビ(ホームレス)が増えた」(情報筋)

(参考記事:経済難で食い詰めた北朝鮮庶民、海辺の都市をさまよう

北朝鮮では、一家の生計を女性が背負っていることが多い。家族を養うために脱北して中国に出稼ぎに行こうとする女性が増え、4月には国境地帯に多くの女性が集まっていた。チョンさんは、そんな彼女らの脱北を手助けする仕事をしていた。

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チョンさんは4月初旬に6人の脱北を手助けした。4月中旬にも3人の脱北を手助けしようとしていたが、4月15日の太陽節(金日成主席の生誕記念日)を控えた国境警備週間の特別取り締まりで、国境警備隊に逮捕されてしまった。

保衛部に連行されたチョンさんは約2ヶ月に渡って予審(捜査終了後起訴までの追加捜査、取り調べ)を受けた後、咸鏡北道安全局(警察本部)の予審課で再び予審を受けていたが、今月6日、勾留施設で死亡した。

悲報を聞いた遺族は安全局に押しかけ、チョンさんは取り調べでひどく暴行されて亡くなったはずであり、死因を明らかにせよと抗議した。

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安全局は、法医鑑定課で死因を調査した結果、開放性結核(排泄物から結核菌が検出されるもので他人に感染させるおそれがある)による出血多量で亡くなったと明らかにした。同時に、保衛部から護送されてきた初日から涙を流しつつ血を吐いていたとも明らかにした。つまり、自分たちには責任はない、保衛部が悪いということだ。

一方の保衛部は、結核にかかったチョンさんを放置して死亡させたのは安全局だ、その責任は大きいとしながら、自分たちに落ち度はないと主張した。

北朝鮮の捜査機関による人権尊重は理想に過ぎないとは言え、被疑者を死に至らしめると担当者は処罰されかねない。そんな事態を避けるために、そして保衛局と安全局は元々仲がよくないこともあって、責任のなすりつけ合いが起きているようだ。

(参考記事:金正恩氏のコロナ対策失敗で「いけにえ」にされる人々

通常、脱北やその幇助を扱うのは保衛部だ。しかしチョンさんの家族は、保衛部の幹部に巨額のワイロを渡し、なんとか2ヶ月で安全局に身柄を移すことに成功した。保衛部が扱えば政治犯となり、政治犯収容所送りになるなどの重い処罰が下される可能性が高まるが、一方で安全局が扱えば一般の刑法犯扱いとなり、処罰が軽く済まされる可能性がある。

(参考記事:「量刑はワイロで決まる」北朝鮮の常識

しかし、脱北幇助は国家反逆の重罪。安全局が扱っても重罰が下される可能性が高い。悪徳保安員、保衛員に対する庶民の恨みは深いが、今回の事件については「どちらの責任とも言えない」という突き放した声も上がっているという。

情報筋は触れていないが、チョンさんの家族が巨額のワイロを払えるだけの財力を持っていることを考えると、庶民の間では金持ちに対する反感が働いているのかもしれない。