北朝鮮警備隊が国境で中国人を撲殺、双方で高まる悪感情

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北朝鮮当局は今年1月、新型コロナウイルスの国内への流入防止策として国境を封鎖し、貿易を停止すると共に、密輸の取り締まりも強化した。それに伴い、中国の密輸業者が国境で命を落とす事件が相次いでいる。

デイリーNKの情報筋は、北朝鮮の国境警備隊が今年5月末、密輸を行っていた中国人の業者を射殺したと伝えたが、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、その後も同様の事件が起きているようだ。

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背景には、これまで密輸や人身売買の手引きをしていた国境警備隊が、姿勢を転換したことがある。

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両江道(リャンガンド)の情報筋がRFA伝えた事件の概要は次のようなものだ。

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先月末、恵山(ヘサン)市内中心部で国境を越えて密輸を行おうとしていた中国の密輸業者が北朝鮮の国境警備隊に逮捕され、その後に暴行を受け死亡した。この業者は、以前から密輸を行っていた業者で、コロナによる国境封鎖、貿易停止で北朝鮮国内で物資不足、物価高騰が起きていることを知り、チャンスだと思い密輸を行っていた。しかし、もう一つの重要な情報は知らなかった模様だ。

「国境封鎖中にも密かに小規模な密輸を行っていたこの密輸業者は、最近になり、党中央の指示でコロナ非常防疫体制に突入した警備隊が、警備を厳格化していることを知らずに国境を越えて逮捕されたようだ」(情報筋)

北朝鮮の秘密警察・国家保衛省は2月末に、中国の辺防部隊(国境警備隊)に対して「新型コロナウイルスの流入を防ぐため、国境付近での活動はするな、さもなくば銃撃する」と言った内容の通知文を送った。これを受けて中国当局は2度に渡り、地元住民に警告を発していた。

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国境警備は4月ごろから再度強化されたが、先月中旬からは「(北朝鮮)国内のコロナの状況が悪化した」(情報筋)ことで、さらに強化された。

この「悪化」が具体的にどのような状況を指すかについて情報筋は言及していないが、この地域での新型コロナウイルスの感染がさらに広がっていることを指しているのかもしれない。

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先月中旬の国境警備強化について、北朝鮮の国境警備隊の幹部は、コロナ感染を徹底して遮断せよとの上部の命令に基づいたものだ、密輸はするなと中国の密輸組織に伝えた。

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ところが、この業者が密輸に乗り出したため、国境警備隊は見せしめとして取り調べの過程で暴行を加えたという。業者は意識を失った状態で中国の辺防部隊に引き渡されたが、その直後に死亡したというのが情報筋の説明だ。

軍当局は、一連の事案に関わった国境警備隊員について、党中央の指示を遂行する過程で起きたことだとして、調査も行わず、責任も問わなかった。

これ以外にも死亡事件が発生している。両江道の別の情報筋は、先月末、中国の別の密輸業者が北朝鮮で集団暴行され死亡したとの噂を聞いたと述べた。しかし、誰が暴力を振るったかについては言及していない。

吉林省白山市に住む被害者の家族は、白山市政府に北朝鮮への抗議と補償要求をして欲しいと請願したが、市政府は被害者の責任が大きいとして受け付けなかった。市政府の関係者は「北朝鮮は米国の話も聞かない国なのに、中国の地方政府の話など聞くものか」と言い放ったという。

相次ぐ死亡事件に中国、北朝鮮の両国国民の間で、相手側に対する感情が悪化している。

事件のことを聞いた中国の地域住民は「密輸の取り締まりを強化したというが、北朝鮮が苦しいときに手を差し伸べてきたのはわが中国ではないか」として、北朝鮮は恩知らずだと非難しているという。

一方で両江道の住民は、北朝鮮国内でコロナをめぐる状況が悪化しているのは中国側の責任が大きい、国境封鎖後も密かに密輸を続けている中国人が悪い、となじっているとのことだ。