北朝鮮の国営メディアは、国内で起きた事件、事故に関する報道を行わない。より正確に言うと、地域だけで聴取可能な有線ラジオ「第3放送」は言及することもあるが、朝鮮中央テレビや朝鮮中央通信、労働新聞と異なり、海外では接することができない。
海外に知らせて良い国内での出来事はポジティブなものだけで、ネガティブなものは体制のイメージを乱すと考えているからだ。そのため、海外にいるわれわれが北朝鮮国内でどんなことが起きていることを知るには、北朝鮮国内にいる人から話を聞くしかない。
仕事などで海外に出国した人、中国キャリアの携帯電話を持っている人に限られるため、階層や地域に偏りが見られるが、ある程度の傾向は掴むことができる。そんな人たちから最近相次いで伝えられているのは、国内での凶悪事件の多発だ。
北朝鮮は、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」の時代に治安が悪化したが、経済制裁と新型コロナウイルス対策による中国との貿易停止により、現在も似たような状況になりつつあるのかもしれない。
(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、今年5月で起きた殺人事件について伝えている。
逮捕されたのは普天(ポチョン)郡に住む50代後半の男性A容疑者だ。
詳しい事情は不明だが、A容疑者は長年一人で貧乏暮らしをしてきた。そんな彼が出会ったのは、同じ村に住み離婚経験を持つ40代前半の女性Bさんだ。二人はお互いの境遇を慰め合い仲良くしていたが、昨年から恋愛関係に発展した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮当局は離婚を害悪とみなしているだけに、社会の風当たりは強かったことだろう。また、一人暮らしの50代男性が「訳あり」扱いされていたことは想像に難くない。
(参考記事:「暴力は離婚理由にならない」北朝鮮の司法が生み出す「捨て子」増大)先月中旬、二人は北に40キロほど離れた三池淵(サムジヨン)に向かった。Bさんのいとこが住んでいて、市場で商品を売るためにしばしば行き来していた。A容疑者は重い荷物を持ったり、道中の話し相手になったりするなどしていた。
それから数日。普段なら商売に出かけても一両日中に帰ってくるBさんから一向に音沙汰がない。不審に思ったBさんの実の兄Cさんは、三池淵に住むいとこに電話した。すると「売れ行きがよく持ってきた品物はその日のうちに売れて、一緒に来た男と帰っていった」との答えが返ってきた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面電話を切ったCさんはすぐにA容疑者の自宅へと向かい、Bさんの行方を問いただした。A容疑者は「知らない」と繰り返すばかり。一緒に行動していたA容疑者が何も知らないわけがないと不審に思ったCさんは、その足で安全署(警察署、旧称保安署)に駆け込んだ。
保安署に連行されたA容疑者は、取り調べで犯行を自供した。商品を売り終えて普天に戻る途中、谷でBさんの首を絞め殺害。有り金を全部奪った後は、遺体を人気の少ない山奥まで引きずって運び遺棄したというものだった。供述内容を元に捜索した結果、Bさんの遺体が発見された。「カネが欲しかった」というのが犯行の動機だった。
安全署は、最近、殺人事件が相次いでいることから、A容疑者に余罪があるものと見て、さらに取り調べを進めている。
普天郡では今年5月、27歳の男性が19歳のコチェビ(ホームレス)女性を性暴力を振るう目的で家に連れ込み、抵抗され殺害する事件が起きるなど、周辺地域を含めて凶悪犯罪が多発しており、住民は恐怖に震えている。
(参考記事:コチェビ女性を家に連れ込み殺害…北朝鮮で治安悪化)