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「もっとひどいやつは捕まえずに、小物ばかり捕まえている」
「二人でやるには規模が大きすぎる」

これは、昨今の政治状況をめぐる日本国民の声ではない。

平安南道(ピョンアンナムド)安州(アンジュ)市の人民委員会(市役所)の職員2人が不正行為で逮捕されたのだが、それに対する市民の不満の声だ。「裏にさらなる大物がいるはず」だという意味の言葉である。

事件の概要を、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

逮捕されたのは人民委員会の都市経営部の部長と、細胞委員長の2人だ。都市経営部は、建物や住宅の管理、割り当てをする部署で、「細胞」は、部署に置かれた朝鮮労働党の末端組織のことを指す。

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部長は、国が所有する建物7棟と住宅1棟の登録を外貨稼ぎ会社に移管した見返りに、1万2000ドル(約128万6000円)、800万北朝鮮ウォン(約9万6000円)、ガソリン券100枚(約1万2000円相当)、ディーゼル油券28枚(約2500円相当)、乗用車1台――のワイロを受け取った。

部長は受け取った金品を細胞委員長と山分けし、残りのごく一部を部下の食糧、物資の購入に使った。そして、乗用車は自分が乗るために部署の名前で登録した。

北朝鮮は、土地と住宅は全人民的所有、つまり国の所有であるとの建前を崩していない。そのため所有権そのものの売買はできないので、住宅に住む権利が売買されている。

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今回問題となった国所有の建物の所有権移管の経緯について情報筋は触れていないが、以前の「所有者」から外貨稼ぎ会社が使用権を買い取り、登録する手続きを行うにあたって、多額のワイロを渡していたのだろう。

不動産の取り引きは本来違法だが、「トンジュ(金主)」と呼ばれる新興富裕層が、行政機関の行う住宅建設に資材、労働力を提供し、その見返りに住宅や分譲権を得る形で、新築マンションの取り引きが行われるようになった。また、中古物件はブローカーを通じて、行政当局や安全署(警察署、旧称保安署)の不動産関連部署の担当者にワイロを掴ませることで行われてきた。

(参考記事:北朝鮮のニューリッチ、最近のトレンドは「郊外の豪邸に住む」

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今回の摘発の背景は不明だが、(1)金正恩党委員長が進めている幹部による不正行為の摘発キャンペーン(2)関係各所にワイロがきちんと行き渡っていなかった(3)2人の取り分が多すぎて恨みを買った、など様々な理由が考えられる。

一方で市民の間では「裏にはさらなる権力者がいるに違いない」との疑惑が広がっているという。部長と細胞委員長の2人だけの共謀で事を起こすには不釣り合いなほど、ワイロの額や取り引きの規模が大きすぎるというのだ。

自分が生き残るために、部下に責任をなすりつけるのは、北朝鮮ではよくあることだ。

(参考記事:金正恩氏のコロナ対策失敗で「いけにえ」にされる人々

2人は今月8日に逮捕され、現在は検察所に勾留され、予審の段階にある。予審とは、捜査終了後起訴までの追加捜査、取り調べなどを行う段階を指す。現段階では、事件の全貌が明らかになっておらず、これからの展開に市民の注目が集まっている。