「脱北者ビラ」を見てしまった北朝鮮軍人の残酷な末路

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「親愛なる指導者、金正日同志は1942年2月16日に白頭山密営でお生まれになった」

これが、北朝鮮の定めた金正日総書記の公式の生い立ちだ。しかし、これは「白頭の血統」の正統性を高めるため、後に創作されたものと言われている。

金正日氏の出生については様々な説があるが、生まれたのは1941年2月16日で、場所は旧ソ連(現ロシア)のハバロフスク近郊のビャーツコエ、ウラジオストクとウスリースクの中間にあるラズドリノエ、ウラジオストク郊外のオケアンスカヤなどと言われている。ちなみにオケアンスカヤ駅には、2002年8月23日に金正日氏が訪問したことを示すロシア語と朝鮮語で書かれた表示が設置されている。

出生時の名前はユーリー・イルセノビッチ・キム、愛称はユーラで、北朝鮮に帰国後もしばらくはキム・ユーラと呼ばれ、金正日という名前を使うようになったのはその後のことと言われている。

金氏一家のプライベートなこと、ましてや「正史」として定められたこと以外に言及するのは、不敬極まりない行為で、違反者は重罰に処される。

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デイリーNK内部情報筋によると、開城付近の軍事境界線で朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の大隊長を勤めていた人物が、金正日氏の「真実」に触れたことで悲惨な最期を迎えてしまった。

大隊長は今年初めに行われた検閲(監査)で、軍事物資を着服していたことが判明し、3月に早期除隊、つまり免職になっていたが、その後も行政的な問題を処理するために部隊に通っていた。

最近、部隊を訪れた彼は、同僚に最近話題のビラについての話をした。

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「除隊したからもう言っても構わないだろうが、以前、軍事境界線で勤務しているときに飛んできたビラを見たら、将軍様(金正日氏)の故郷は白頭山ではなく、ロシアだと書かれていた。本名も金正日ではなくキム・ユーラだと書かれていた。われわれは歴史をきちんと学んでいなかったようだ」

さらには、金正恩党委員長が異母兄の金正男(キム・ジョンナム)氏を暗殺したこと、金正恩氏と李雪主(リ・ソルチュ)夫人の間には10代の息子がいるなど、ビラに書かれていたことを同僚に話してしまった。

金氏一家を批判することは、北朝鮮では最もしてはいけない行為の一つで、殺人より重い罪に問われる。よほど気心の知れた相手や家族でなければ、そんな話はしないだろう。

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とりわけ現在は、金正恩氏の妹・金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長が、韓国の脱北者が金正恩氏を非難するビラを飛ばしたことに対して、激しく非難する談話を発表し、全国各地で脱北者糾弾大会が開かれている状況にある。大隊長は、よほど空気が読めなかったのだろうか。

話を聞かされた同僚が密告したのか、このことは保衛指導員(秘密警察)を通じて保衛局(前保衛司令部)に報告された。保衛局は、予審(起訴前の取り調べ)なしに即刻銃殺せよとの命令を下した。大隊長は翌日銃殺された。

(参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

近代刑法では、行為者の行為によってのみ犯罪が成立するという原則があるが、北朝鮮では行為者のみならずその家族、親戚まで罪に問われる連座制が適用される。今回の事例では、妻と子どもたちは国家保衛省(秘密警察)管轄の管理所に、妻の弟やその家族は社会安全省(警察庁、旧称人民保安省)管轄の管理所に連行された。管理所とは政治犯収容所のことだ。

通常、このような場合に当局は、配偶者に離婚する選択肢を与える。離婚することで容疑者との関係がなくなり、処分を免れるからだ。ところが、今回はその意思確認もないままに、家族全員が収容所送りにされてしまった。神聖不可侵なる最高指導者に関する案件である上に、ビラが問題になっている時期であるため、敏感に反応したのだろうというのが情報筋の見立てだ。

(参考記事:男たちは真夜中に一家を襲った…北朝鮮の「収容所送り」はこうして行われる

一方で大隊長の息子に関しては、事情が異なる。大隊長が「息子が『米・日・南朝鮮(韓国)の傀儡一味は、自分に直接の被害を与えたことはない。むしろコメもくれず、うちの父親を除隊させたこの国の方がもっと悪いんじゃないか』と言うので、『言葉に気をつけろ』と注意した」と語ってしまったのだ。

父親である大隊長が余計なことさえ言わなければ、すぐに殺されることはなかっただろうが、この発言で、息子の処刑は必至と囁かれているとのことだ。

今回の即決銃殺を目の当たりにした軍内部は、恐怖にふるえているという。大隊長の銃殺は、「言葉に気をつけろ」という意味合いでの見せしめになったということだ。

(参考記事:「手軽な見せしめ」公開処刑を止められない金正恩の病弊