米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は昨年10月、両江道(リャンガンド)の情報筋の話として、平壌の一部女性の間で流行していた美容整形手術が、全国に広まりつつあると伝えた。なし崩し的な市場経済化による新興富裕層の出現が、こうした現象に拍車をかけていると思われる。
施術するのは主に、国営病院に勤める医師だ。仕事を終えた医師は、自宅に道具を揃えて整形手術を行う。二重まぶたにしたり、ほくろを除去したりと言った簡単な手術は、医師が患者宅に往診して行う。整形の技術を専門的に学んだ医師がほとんどいないため、外科の医師が行うことが多いが、中には看護師が行うケースすらある。
RFAは、技術を持たない医師が、衛生が保たれていない場所で執刀することで、医療事故が起きているとも伝えた。
そして今年、このような整形手術で深刻な事故が起きたとの情報が相次いで伝えられた。RFAの咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると10月中旬、清津(チョンジン)市内の浦港(ポハン)区域と水南(スナム)区域で公開裁判が行われ、違法な整形手術で患者に深刻な副作用をもたらした医師らに強制労働の刑が言い渡された。
寒さと食糧不足の中で安全装備も付けずに強制労働させられるということは、とてつもなく厳しい刑罰と言えよう。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面別の情報筋も、市内の新岩(シナム)区域でも同様の裁判が行われ、医大を出たばかりの20代女性が裁判にかけられたと伝えた。整形手術の副作用に苦しんでいた女性に再手術を施したものの、取り返しがつかないほど顔をむちゃくちゃにしてしまったというのが彼女の容疑だ。
一方、韓国デイリーNKの平壌の情報筋は11月、「派遣労働者として海外へ行った男性2人が現地で刺青のやり方を覚え、帰国後に『顔面手術』を行っていたが、施術中に患者が死亡して大問題になった」と伝えた。
ここで言う「顔面手術」とは、眉毛に刺青をするアートメイクを中心とする「プチ整形」のことだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面このような、医療の刺客を持たない者による施術や、そこで起きた事故は、北朝鮮でも重大な犯罪と見なされる。北朝鮮の刑法第200条では、医療の資格を持たない者が私的な目的のために医療行為をし、患者に重傷を負わせたり死亡させたりした場合は、1年から5年の労働教化刑(懲役)刑に処すと定めている。
ところがデイリーNKの情報筋によれば、「顔面手術」で摘発された男性2人は法定刑を大幅に上回る死刑判決を受け、平壌市内で公開銃殺されたという。
(参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮当局は整形手術を「腐って病んだ資本主義の退廃的な文化を持ち込み、わが国の社会を蝕む行為」だと非難し、厳しく規制すると医師たちを脅かしてきたが、抑止の効果は上がらなかったようだ。その結果が、今年に入っての相次ぐ摘発となったのだろう。
問題は、いかに重大な違法行為であるとは言え、法治の範囲を超え死刑が恣意的に行われていることだ。これは、北朝鮮当局による重大な人権侵害として、前々から国際社会の批判の対象となっていることだ。
このような刑事事件の取り締まりで法を厳正に執行することに、金正恩体制にとって何の不都合があろうか。それにもかかわらず、このように手軽な「見せしめ」を求め、場当たり的に死刑を「バカのひとつ覚え」のように繰り返す当局の人命軽視を金正恩党委員長が止められなければ、北朝鮮の人権侵害を非難する国際世論が弱まることはないだろう。