金正恩印のお菓子セット「コロナ感染の疑い」で大騒動

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北朝鮮当局は今に至るまで、国内での新型コロナウイルス感染者の発生を公式には認めていない。しかし、今年に入ってから各地で原因不明の熱病患者が続出している。

新たに伝わってきたのは、中国と国境を接する慈江道(チャガンド)渭原(ウィウォン)郡での事例だ。現地のデイリーNK内部情報筋によると、「お菓子セット」を子どもたちに配布する職務を担っていた30代後半の女性が、発熱と貧血の症状で倒れた。

このお菓子セットは、4月15日の太陽節(金日成主席の生誕記念日)を記念して配られたものだ。北朝鮮では、太陽節と2月16日の光明星節(金正日総書記の生誕記念日)、そして1月8日の金正恩党委員長の生誕記念日に全国の子どもたちにお菓子セットを配る。北朝鮮お得意の「贈り物政治」、言い換えると「物で釣る」ためのものだが、決して評判が良いとは言えない。

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そんなお菓子セットを配っていた女性が倒れたことで、地元は大騒ぎになった。新型コロナウイルスに感染した疑いがあるからだ。金日成氏の名前で郡内の子どもたちに配られるお菓子セットで接触感染が起こったとするならば、最高指導者の権威を傷つけたと見なされ、この女性のみならず郡の幹部までが悲惨な末路を辿ることになりかねない。

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また、女性と数日に渡ってお菓子セットの配布計画の打ち合わせをしていた地元住民たちは、濃厚接触した形となり、不安な日々を過ごした。

当局は女性を隔離し、親戚の家を含めて複数の家や移動経路を消毒すると同時に、地元住民の体温チェックを毎日行い、市場とソビ車(個人の運送車両)の駐車場など、流動人口の多い場所を数日間閉鎖した。

他にも発熱の症状を見せる人が現れ、地元は緊張に包まれた。しかし、幸いにして新型コロナウイルスではなかったもようだ。

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女性と打ち合わせをしていた住民が、「女性は数日前から熱があり、下痢もしていたが、お菓子セット配布の責任者だったために無理をして働いていた、女性は毎年この時期になると同様の症状があった」との証言をしたことから、当局は新型コロナウイルスではなく、パラチフスの診断を下した。

パラチフスとは、パラチフスA菌が引き起こす感染症で、高熱、発熱、下痢などの症状を見せ、汚染された食品や水からの経口感染する。抗生剤できちんと治療を受けなかった場合、無症状の保菌者となり、便を通じて菌を排出する。

先進国での発生は、ほとんどが海外からの帰国者からのものだが、発展途上国では子どもや若者に多く発生している。北朝鮮は、不足する肥料を補うために毎年1月から全国的に「堆肥戦闘」、つまり人糞集めキャンペーンが大々的に行われることから、それを通じてパラチフスの感染が広がっていると考えることもできる。

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入院した女性は10日以上も高熱が続いたが、症状が落ち着き、既に退院した。新型コロナウイルスでなかったということで、当局も地元住民も胸を撫で下ろしているだろうが、安心するのはまだ早い。国境を接する中国・吉林省とその隣の遼寧省が、中国における新型コロナウイルス感染の第2波の中心となっているからだ。

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