北朝鮮の北部山間地にある両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)。人口は約20万人で決して大きな都市とは言えないが、その重要度は非常に高い。国境を流れる鴨緑江を挟んで中国と向かい合っているからだ。
その地の利から、新義州(シニジュ)や羅先(ラソン)には敵わないとはいえ、全国から人や物がやってくる商業と貿易の都市で、北朝鮮の中でも比較的裕福と言われている。市内には数多くのマンションが立ち並んでいるが、おりからの国際社会の制裁、新型コロナウイルス感染防止のための国境封鎖にもかかわらず、不動産価格は去年とさほど変わりがないと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えている。
情報筋が例に挙げたのは、恵山の旧市街地から北東に4キロほど離れた渭淵洞(ウィヨンドン)の9階建てのマンションで、価格は去年と変わりのない3万元(約46万1000円)だ。
この地域には、20棟以上のマンションが立ち並んでいるが、半地下の部屋は、新駅舎が建設された渭淵駅を利用する人々を相手にした、待機宿泊(ヤミ民泊)や荷物預かり所として使えることもあって人気だ。また、こういう理由もある。
「密輸をするのに比較的有利な場所にあるため、密輸ができない状態にあっても価格に変化がない」(情報筋)
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同じ地域のマンション建設現場では2018年8月、大型クレーンで運んでいた鉄筋が落下し、その下敷きになった労働者2人が死亡する事故が起きている。
うち1人は、革命化措置(下放)で一般労働者として働いていた三池淵(サムジヨン)郡の朝鮮労働党の組織担当書記、つまり地方政府の幹部であることが判明し、大騒ぎになった。
(参考記事:次から次へと死者が…北朝鮮「マンション・ブーム」の怖い話)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面国境封鎖に加え、全国的な防疫作業に多くの人が動員され、市場での商売も動きが鈍い状況だが、春の引っ越しシーズンを前にして手堅い需要がある。なかには新型コロナウイルスをネタに値切ろうとする人もいるが、所有者は応じるそぶりを見せないという。
一方、市内中心部にある両江日報社前のマンションや芸術人アパートも3万3000元(約50万7000円)から4万元(約61万5000円)で、去年と変わらない価格で取り引きされている。価格は、日当たりによって変わる。
このマンションの建設を巡っては、新しい部屋の提供と条件に立ち退いた住民の約束が守られず、トラブルとなっている。
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ちなみに北朝鮮は、土地と住宅は全人民的所有、つまり国の所有であるとの建前を崩していない。そのため、所有権そのものの売買はできないが、住宅に住む権利を売買する形を取っている。これは「70年間の土地使用権」を売買する形をとっている中国と似ていると言えよう。