「新型ウイルス」緊張下の北朝鮮で兵士らが民家を襲撃

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北朝鮮と言えば「飢餓」というイメージが付いて回る。確かに穀物生産は、国内の需要を満たせない状況が続いているが、個人耕作地での生産や密輸などがその穴を埋めているため、満足に食べられる状態ではなくとも、実際のところ、餓死者が大量に出るような状況にはなっていない。

そんな北朝鮮で、最も食糧事情の悪いところの一つが朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の部隊だ。食糧は、協同農場で収穫された作物に依存しているが、輸送過程での横流しが深刻で、末端の兵士はまともに食事にありつけない状況だ。取り締まりは行われているものの、効果は未知数だ。

(参考記事:北朝鮮軍に「横流し取り締まり部署」新設も効果は未知数

そんな状況で、民間人の家や住宅を襲い、食べ物を強奪する事件が続発したかと思えば、軍に収める軍糧米の取り扱いを巡って兵士と農民が乱闘を起こす事件も発生している。

最近ではデイリーNKの内部情報筋が、軍官(将校)が部下を率いて民家を襲った事件を伝えている。

北朝鮮は今、新型コロナウイルスの侵入を恐れて国境を閉ざし、ほとんど鎖国状態になっている。今後、物資のひっ迫が起これば、事件はさらに多発する可能性がある。

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(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

デイリーNKの内部情報筋が伝えてきた事件の概要はこうだ。

国境警備隊司令部警備中隊のキム小隊長(25)は、旧正月(先月25日)を控え、年明けの準備をするとの名目で、部下15人を連れて市場を訪れ、その周辺にある民家に忍び込み空き巣を働いた。旧正月用に買い込んだ食べ物の多い時期を狙った犯行だ。

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小隊長はその後、国境警備司令部政治部の幹部指導員を訪ね、盗んだ品物をワイロとして渡した。犯行に加担させた部下には、宴会で飲み食いさせて口止めした。

しかし、自分の昇進のことしか考えていない小隊長に不満を頂いた部下が、中隊長と司令部に信訴を行った。「信訴」とは、中国の「信訪」と同様に、公務員による不正行為を告発するシステムで、目安箱や匿名通報のようなものだ。

この案件が正式に取り上げられ、今月に入ってから、区分隊の軍官が参加し、キム小隊長に対する「同志審判」が開かれた。

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同志審判とは、国の機関、企業所、軍などで同僚どうしが行う審判で、群衆審判とも言われる一種の人民裁判だ。その結果、謹慎、杜門(自宅軟禁)、無報酬労働、出党(労働党除名)などの処分が下されるが、最悪の場合は、改めて正式な裁判を受けることになる。脱北を防ぐ目的で、見せしめに公開処刑が行われた事例もある。

今回の同時審判では、小隊長の過去の悪事が次々に暴露された。その結果、撤職(更迭)された上で、金策(キムチェク)労働連隊での強制労働処分を受けた。労働連隊とは、民間人の軽犯罪者が収容される労働鍛錬隊と同じようなもので、朝鮮人民軍、人民保安省に加え国防科学機関勤務者も対象となる。

処分の期間が満了すれば、所属部隊の党委員会の全体会議でその後の処遇について検討がなされる。制度的には軍人として復帰することも可能だが、他の人員への代替が難しい技術職でなければ、不名誉除隊(懲戒免職)となる可能性が高い。キム小隊長の場合もこれに当たる。

上官の犯行に加担させられた部下だが、内容は不明ながら、何らかの処罰は避けられないと見られている。

小隊長からワイロを受け取った幹部らだが、当初は一切のお咎めを受けていなかった。ところが、兵士の間で「ワイロを渡した方も悪いが、受け取った方はもっと悪い」との不満の声が上がり、結局は降格処分が下された。

軍関係者の窃盗、強盗については、度々厳しい処罰が行われているが、「食べるものがない」という根本的な問題が解決しない限りは、今後も繰り返されることだろう。

(参考記事:ミサイル開発どころじゃない…北朝鮮「ドロボー軍隊」悲惨な内情