金正恩が「ニセ焼酎」を憎悪する本当の理由

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世界保健機関(WHO)の飲酒に関する2016年の調査によると、北朝鮮で飲酒しない人の割合は男性46.3%、女性72.3%、両性平均で59.7%。これは日本の43%、韓国の36.1%と比べるとかなり多い。また、1人当たりのアルコール消費量も日本や韓国より少ない。

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一方で、種類別の消費の割合を見ると、日本(蒸留酒40%、その他36%、ビール18%、ワイン6%)、韓国(その他69%、ビール22%、蒸留酒7%、ワイン2%)と異なり、北朝鮮は蒸留酒が97%を占めている。

飲酒をしない人が多い一方で、飲酒する人は非常にきつい酒を飲んでいるということも考えられるが、消費されるアルコールが密造酒で、統計に捉えられていないということも関係しているだろう。

(参考記事:北朝鮮で「爆弾酒」文化が流行…名前は「将軍様の度胸酒」

そんな密造酒の取り締まりキャンペーンを北朝鮮当局が始めたと、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

当局は、先月初めから清津(チョンジン)市の水南(スナム)区域と青岩(チョンアム)区域の工場、企業所の労働者、人民班(町内会)で密造酒根絶に関する講演を行っている。その内容は「穀物の無駄遣いを許すな」というものだ。

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複数の国際機関が指摘しているように、今年の北朝鮮の農業生産量は昨年比で減少し、各地の協同農場では軍糧米の供出を巡り当局と農場員の攻防が繰り広げられている。そんな状況での酒の密造は、許しがたい無駄使いであるということだろう。

(参考記事:農場幹部を監禁して「コメを出せ」と脅迫する北朝鮮の党幹部

保安所(派出所)は、人民班長(町内会長)からの情報を元に、密造酒製造者のリストを作成し、直接訪れて密造酒を作っていないか確認を行っている。現場を見つけたら、1度目は口頭での注意に留めるが、再び見つけたら労働鍛錬隊(軽犯罪者向けの刑務所)送りにすると警告している。

密造者らは、台所の床下などに酒を入れた瓶を隠すが、家中に酒の甘い香りが染み込んでいるため、すぐにバレてしまうそうだ。

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北朝鮮では過去30年間、大々的に酒の密造が行われてきた。2009年の密造酒取り締まりに当たって、当局は根拠は不明だが「年間100万トンの穀物が無駄にされている」と主張していた。

(参考記事:北朝鮮、穀類を無駄使いする密造酒を集中取り締まり

北朝鮮で酒の密造が広まったのは、1987年の「禁酒令」がきっかけだ。

当局は、各地方にある食品工場に対して酒の醸造を禁じた。あまりにも多くの穀物が使われ、飲酒は社会主義文化を乱す非社会主義行為というのがその理由だが、実際は食糧の需要を満たせるほどの生産量がなかったことが原因のようだ。

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1980年代の年間の食糧生産量は平均410万トン程度で、毎年100万トンから150万トン程度が不足していたが、その穴埋めを旧共産圏からの輸入や支援に頼っていたため、問題が表面化することはなかった。しかし、旧共産圏の没落で食糧の不足が深刻化したため、1987年から一人あたりの食糧配給量を1日700グラムから546グラムに減らした。しかし、1990年代中盤には年間の食糧生産量が350万トン程度まで落ち込み、大飢饉「苦難の行軍」に陥った。

今では国営酒造会社や輸入物の酒類が市場で出回っているため、かつてほど密造酒の製造は盛んではなく、さほど厳しい取り締まりも行われなくなっていたが、ここに来ての取り締まりの強化は、食糧不足に加えて、密造酒による事故で大量の犠牲者が出たことと関係しているだろう。

今年3月ごろから、「松岳(ソンアク)」ブランドを騙ったニセ焼酎を飲んだ人々が相次いで急激な視力低下に見舞われたり、死亡したりする事故が多発し、当局は密造酒への注意喚起をするなど、対応に追われた。

(参考記事:北朝鮮で「密造酒を飲んで死亡」多発、当局も警戒呼びかけ

後に密造酒を製造、販売していた男女3人が逮捕され、平壌郊外で公開処刑されたが、この事件には最高幹部の子息が加担していたとも、あるいは犠牲になったとも言われている。

(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み銃殺された…北朝鮮が公開処刑を再開