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中国には「乱収費」という言葉がある。これは、法律や規則などの裏付けのない税金や料金を、勝手に徴収することを意味し、1990年代から2000年代の中国で深刻な社会問題となっていた。

研究者の高橋孝治氏は、論文「中国にとって租税とは何か」(東アジア研究第18号)で、乱収費のパターンを「法律の根拠なき徴収」、「徴収官が自ら作り出した根拠による徴収」、「法律や規定に違反した徴収」、「法律を都合よく解釈した徴収」の4つに分類している。

また、湖北省のある県の小中学校で、学費などの名目で生徒や親から年間数百万元の費用を徴収していたことや、今まで無料で通行できた高速道路や改良の予定もなく補修もされていない山道の通行で突然通行料を徴収されるようになったことを、乱収費の例として挙げている。

こうした乱収費の実例は、今の北朝鮮で起きていることと非常に似通っていると言えよう。

北朝鮮は、故金日成主席の提唱に応じて、1974年4月1日から税金制度を廃止した。地方政府は、中央政府からの予算配分で運営に必要な資金を得ていたが、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」を境にして、その資金が途絶えてしまったのだ。

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そのため、建設現場の労働者への支援、金正恩党委員長への忠誠の資金など、法的裏付けのない様々な「事実上の税金」を徴収することで、行政機関を運営している。

江原道の川内(チョンネ)では、本来無料であるはずの道路の通行料を徴収するようになったが、不正行為であったことが判明したと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

川内では、今年3月から道路の補修工事が行われているが、半年以上が経過しても終わる気配がない。工事を任されているのは朝鮮人民軍(北朝鮮軍)道路局のある中隊だ。

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4〜5ヶ月で終わるはずの工事が長引いていることを訝しんだ上級部隊は、現地の建設部隊に検閲隊(監査チーム)を派遣し、実態調査を行った。検閲団は、いとも簡単に工事が長引くからくりを暴き出した。

道路局は、工事開始とともに当該区間を完全に通行止めにし、工事をできる限り早く終わらせることを指示した。そのせいでドライバーは、本来なら20〜30分もあれば通れる区間を、1時間もかかる非舗装の迂回道路を通るという不便を強いられることになった。制裁で不足するガソリンを節約しなければならないのに、このロスは非常に痛い。

そんなところに目をつけた警備小隊の兵士らは、ドライバーから通行料を受け取り、通行を許可していたのだ。そのせいで工事をした区間がすぐにダメになり、工事を何度もやり直さざるを得ない状況となっていた。

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北朝鮮では、何らかの権限はすべてカネ儲けのネタとなる。子どもの小遣い銭程度の月給しかもらえないため、生きていくには権限を振りかざしてワイロを受け取るしかないからだ。しかし、額は明らかにされていないものの、一兵士がドライバーから受け取る通行料など、大した額ではないだろう。

(参考記事:北朝鮮で次々に編み出される「バレないワイロの受け取り方」

不正を働いていた兵士のみならず、これを幇助していた道路局の責任軍官(将校)らは追加の取り調べを受けることになるが、重罰は免れないだろうと情報筋は見ている。

朝鮮人民軍は兵士に対して、品位保持と政治問題に巻き込まれることを避けるため、商売を禁じているはずだが、部隊が前庭を駐車場として貸し出し、兵士に夜間警備までさせている実態が伝えられている。

(参考記事:女性兵士の「性上納」とカネ儲け…北朝鮮軍の「ポンコツ」な実態

北朝鮮では最も神聖とされる最高指導者に関連するモニュメントですら、カネ儲けのネタとなっている。平壌市内を見下ろすチュチェ思想塔は本来入場料が無料だが、列をすっ飛ばして早く入るにはワイロが必要だ。このような施設でワイロを受け取れば、下手をするとクビが飛びかねないが、強力なコネによって守られているようで、クレームが相次ぐ中でも、ワイロ徴収は続けられているようだ。

(参考記事:ワイロ要求のネタと化した北朝鮮「偉大な首領」の政治モニュメント