北朝鮮で利用されている携帯電話の数は、500万台とも600万台とも言われる。1人で複数台持っている人もいると思われ、KT南北協力タスクフォースチーム長イ・ジョンジン氏の推計によると、ユーザー数は450万人に達する。つまり全人口の2割近くが携帯電話を利用している計算になる。
そんな中で携帯電話を利用した新しいビジネスが続々と登場している。例えば、注文を受けて食事や品物をデリバリーするビジネスはその典型だが、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきたものは、出会い系サービスだ。
北朝鮮では1980年代ごろから恋愛結婚が一般化しているが、見合い結婚も行われている。トンジュ(金主、新興富裕層)と権力層を結びつけるこんなお見合いビジネスも存在する。
(参考記事:猛暑の北朝鮮で人気を集める「携帯電話で冷麺デリバリー」)(参考記事:北朝鮮の最新ビジネスは「政略結婚の仕掛け人」)
そして、顧客の理想に基づいて相手を探す日本の結婚情報サービスと似たビジネスが、携帯電話を使って行われているという。
利用にあたって必要となるのは「チョナ・トン」と呼ばれるものだ。直訳すると「電話・お金」という意味になるが、携帯電話の通話料金をプリペイドでチャージし、それを他のユーザーとやり取りするという形のサービスで、送金ともキャッシュレス決済とも言える。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「多くはないが、残った通話料金を市場でものを買うのに使う人もいる。その場で商人に『チョナトン』で代金を支払う」(咸鏡北道<ハムギョンブクト>の情報筋)
出会いを求める人はまず、「チョナ・トン」をチャージし、それを前払いで仲介業者に送金する。その後、容貌、健康状態、職業、家柄、財力など相手に求める条件を通知文(携帯メール)で業者に知らせる。業者は、それに応じて相手の個人情報リストを送信する。料金は30ドル(約3190円)からで、相手に求める条件に応じて異なるという。
かつての北朝鮮では、恋愛と結婚など私生活においても、朝鮮労働党や政府が理想とする家族のイメージが重視され、職場が相手を紹介することがよくあった。しかし、2014年に脱北した両江道(リャンガンド)出身の脱北者は、「もはや党が求める『革命的な出会い』や『革命的な家庭』などの概念は、若者たちに通じない」として、次のように説明した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「若い男女の出会いを仲介するビジネスとして登場したのは、恋愛観が自由になった今の北朝鮮社会を反映したものだ。恋愛結婚が増えていることも同じ文脈で読み取れる」
気軽に出会いと別れを繰り返す最近の若者にとっては、携帯電話を使ったサービスは都合がいいようだ。一方で、携帯電話すら持っていない若者は、出会いの対象から除外されてしまう。「食事を抜いてでも携帯電話を買う」のは、生き残るための投資でもある。
(参考記事:北朝鮮で「サウナ不倫」が流行、格差社会が浮き彫りに)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮においても、恋愛や結婚に貧富の格差が確実に影響しているといわけだ。
(参考記事:北朝鮮の最新版「飢えてでも買うべきマストアイテム」)