北朝鮮の金正日総書記は、市場経済化する経済を元の計画経済に戻し、経済の主導権の国の手に取り戻すために、市場に対する統制を強めていた。それが、経済の大混乱につながった。
一方の金正恩党委員長は、放任主義と言っていいほど市場に対する統制を行っていない。そのおかげで、市場経済化はさらに進展し、トンジュ(金主)と呼ばれるニューリッチが数多く誕生した。
ところが北朝鮮当局は、ここに来て市場に対する統制を強めるかのような政策を取るようになっている。
(参考記事:国定価格表が呼ぶ憶測…金正恩氏は計画経済への回帰を目指している?)北朝鮮当局は、中国との国境に接する地域で、経済犯罪を取り締まる「8.4常務」という組織を立ち上げた。
両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、この組織は元々、2014年8月4日に下された指示に基づいて作られた薬物犯罪の取り締まり班だった。ところが、今年3月下旬からはその対象が拡大した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面その一つが、商売に対する統制だ。
北朝鮮の商人の中には、自宅を改造して店を出す者や道端に露店を出して商売する者も数多くいるが、8.4常務は彼らを取り締まり、「商売するなら市場でしろ」と通告している。
北朝鮮の地方政府にとって、市場で商売する商人から徴収する市場管理費が事実上の税収となっているが、自宅で商売されてしまうと税金を取りはぐれてしまうので、取り締まりの対象としてきた。そのような商人を取り締まることで、税収を増やそうとする目論見があるとも言えよう。
(参考記事:北朝鮮「商売するなら市場でやれ」自宅での商売を取り締まり)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
ここまでなら、従来の取り締まり班が行っていたのと変わりない。
当初は国境における脱北、密輸、麻薬の取引、人身売買などを主な取り締まりの対象としていたため、取り締まり班のメンバーは主に保安員(警察官)だったが、米朝首脳会談が行われたころから、検察と保衛部(秘密警察)が加わり、組織が拡大したという。
さらに、「糾察隊」と称する路上での風紀取り締まり活動に参加してきた女盟(朝鮮社会主義女性同盟)、職盟(朝鮮職業総同盟)、青盟(金日成ー金正日主義青年同盟)なども加わるようになった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面拡大後の8.4常務には、各組織の監察、取り締まりの機能を一元化することで、地域の統制をより強化するという当局の意思が反映されているものと思われる。国境地域では密輸、脱北、脱北者家族との通話、送金など、様々な違法行為が行われてきたが、それぞれ取り締まり権限を持った組織が異なっていた。
今年に入ってからは取り締まりがいっそう厳しくなり、住民の間では「取締官も食べていかなくてはならないから、取り締まりを厳しくして罰金を取り立てなければならない」と言われている。
国際社会の制裁の影響が国民生活に深刻な影響を与えるようになり、市場では商人の数が激減した。市場管理税が払えるほど儲からない商人が、道端や自宅で商売しようにもすぐに取り締まられてしまうため、収入を得るのが困難となり、ただでさえ苦しい生活が余計に苦しくなっている。
(参考記事:北朝鮮の市場に異変「商人の数が激減している」)咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋も、各市、郡に8.4常務が作られ、自宅での商売、禁止品目の販売が取り締まりの対象となっているとしている。清津(チョンジン)の8.4常務は、医薬品の卸売商を摘発し、商品を全量没収するなど、大商人への締め付けにも加担している。
一連の取り締まり強化は単なる国内の引き締め策なのか、社会主義計画経済という「華やかりし過去」への回帰なのか、わかっていない。
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