北朝鮮は90年代中半の「苦難の行軍」時期から今日まで、慢性的な食糧問題に苦しんでいる。北朝鮮の農村経済の根本的な問題は何であるのか? 韓国の代表的な専門家の韓国農村経済研究院のクォン・テジン副院長に、北朝鮮の食料事情に対する総合的な評価と今後展望を聞いてみた。
(社)北朝鮮民主化ネットワークが発行するNKビジョン2月号に掲載されたインタビュー記事を了解を得て日本語に翻訳しました。北朝鮮の食糧状況を理解に役立てれば幸いです。
北朝鮮の食糧需要量が530万トンという統計が出されたが、130万トンが不足しているとの分析が出てきた。130万トンの根拠は?
「北朝鮮は1年に二回の収穫を行うが、秋(9〜10月)と初夏(7月)の二毛作をしている。秋の収穫は350万トン程度、初夏の収穫量は50〜60万トンと把握している。2011年に供給される穀物は、2010年秋の収穫と2011年初夏の収穫だ。北朝鮮が自主的に400万トンの穀物を調達出来ると思われるが、北朝鮮の食糧需要量は530万トンで、130万トンが不足する。
不足分の130万トンが北朝鮮住民の実生活に与える影響は。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「現在、高位職、党官僚、軍人を除いた一般住民には、食糧が手渡されない。2千400万人の北朝鮮住民の中、800万人が食糧配給を受けることが出来ずに自主的に食料を確保しなければ、餓死する事態に至っている。配給を受け取れない住民らは市場から調達しなければならない状況であり、市場の変化にとても敏感に反応せざるを得ない。しかし、これは市場に過需要を招き、穀物の値段の上昇を呼び起こし、北朝鮮住民にとって二重苦を繰り返す悪循環となっている。この中の200万人は食糧を調達できない子供、老人、未亡人などがいる。彼らは政府の配給に全面的に依存するほか無く、食糧不足はこの階層を直撃するだろう。
ならば配給システムが崩れれば、市場が活性化するのではないか。
「配給体制が本来の役割を果たせずにいるために、北朝鮮で市場が生まれたのは間違いない。北朝鮮当局がこれを認定せず統制することが問題だが、市場を完全に統制しているものでもない。北朝鮮当局が住民への責任を負うことが出来ない為、住民が暮らす事が出来る通路だけを作っておいたのだ。北朝鮮当局は市場を引き締めたり、緩めたりを繰り返している。市場が活性化されそうになると市場を引き締め、経済状況が難しくなり暮らしが難しくなれば、再び市場を緩める形。この様な北朝鮮当局の統制によって、まったく関係の無い人々が利益を得たりする。市場の取り締まりの権限を持った人々だが、彼らのせいで商人らは収入の10%を奪われていく」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮の市場の状況を巨視的にどのように展望しているのか?
「北朝鮮当局は、社会主義計画経済体制を正常軌道に戻そうと努めている。今は市場はやむを得ず認めている状況。2002年7・1経済措置によって、市場の機能が全般的に拡大していると思われる。一般勤労者は収入の80%を市場を通じて得ており、全体消費の80%を市場で使っている為、市場がかなり一般化されていると思われる。また、北朝鮮では企業所の直接的な取り引きが禁止されていたが、現在は企業所間の取り引きが行われている。これは企業所同士の直・間接的な取り引きの必要性を、北朝鮮当局側で認めたからだ。北朝鮮の経済システムが正常で無い為、企業所同士の取り引きさえも行われなければ、危険な状態に達するとの自主的な判断があったのだろう。これは「市場システム」が企業所の原材料の取り引きにも影響を与えたと思われる」
北朝鮮の食糧不足で最も大きな原因は、肥料不足が挙げられている。肥料と北朝鮮の食料事情の関連について。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「1990年代初めから、北朝鮮の肥料供給状況と農作物の生産量の関係を比較すれば、肥料供給量と生産量が比例して現れる。肥料を供給すれば生産量も増える。農業には肥料のみならず、気象状況や様々な条件が共に作用するが、基本的に農業生産量は供給される肥料の量に比例する。北朝鮮の肥料生産量は苦難の行軍時の90年代初期から中盤まで急減した。肥料供給の不足は国際関係とも関連がある。北朝鮮と緊密な同盟関係であった社会主義国家が没落していく中、肥料輸入に障害が発生した」
北朝鮮が中国との交易を通じて、食糧と肥料を確保する可能性は。
「昨年7月に北朝鮮は中国から大量の肥料を輸入した。初夏収穫は問題がないと思われるが、肥料をより一層確保することができなければ、本格的な農作期に大きな問題が生じるだろう。現在、中国も食料事情が良くない為、輸入を増やしているのが実情だ。北朝鮮は昨年も、本来必要な時期に中国から肥料を得る事が出来ず、農閑期になってようやく確保した。これは中国が食糧と肥料に支援する余地があれば、北朝鮮に支援をするという意味である。現在中国は、事情が緊迫していると判断しており、北朝鮮と中国の食糧と肥料の交易は順調とは展望出来ない。だが、中国の対北朝鮮支援は政治的判断が非常に強く作用する為、注視する必要がある」
対北朝鮮支援で米、麦のような現物よりは、肥料だけを支援するべきとの主張に対してどう思うか。
「賛成だ。北朝鮮は肥料の使用量がとても低い。北朝鮮に1トンの肥料を支援すれば、2トンの穀物を生産することができる。肥料を適正に使えば農業生産性が上がるだろう。肥料は転用も出来ない為、北朝鮮住民を支援する最も良い方法は肥料だけ支援することだと考える。これは北朝鮮の未来を長期的に見る時も、生産量を増やし市場を拡大するのに大きく寄与するだろう」