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米ニューヨークに本部がある国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」。人権問題に関心がある人ならこの名前を知らない人はいないだろう。1978年に結成されたHRWは、世界90ヶ国近くで人権問題の解決に取り組んでいる。1997年には「対人地雷禁止条約」を実現させたことによりパートナー団体と共にノーベル平和賞も受賞している。

香港に次いでアジアで二番目となる東京オフィスが産声を上げたのは2009年の4月だった。この設立を任されたのが、土井香苗氏である。21歳で史上最年少で司法試験に合格した彼女は2005年にはニューヨークに留学し、米国の弁護士資格を取得するなど、将来が約束されているにもかかわらず人権問題に関わるため、HRWに参加した。その歩みは1月24日にデイリーNKで紹介したイ・ジヘ氏にも通じるものがある。

HRWは北朝鮮の人権問題をどのように展望しているのか?そして日本として北朝鮮の人権問題にどう関わるべきなのか?東京オフィス・ディレクターの土井香苗氏に話を聞くため、1月31日東京千代田区明治大学にあるHRW東京事務所を訪れた。

−HRWに関わったきっかけはなんでしょう?

元々、弁護士として人権問題にはかかわってきた。さらに国内の人権問題だけではなくて、中国やエチオピア、アフガニスタンの難民弁護をしてのでグローバルな人権問題に関わりたいという思いは常にあった。2005年から米NYに留学したのだが、2006年にHRWの門を叩いた。翌年、日本に帰国してHRWの駐在員をしながら、「HRW東京オフィス」を立ち上げる準備を始め、2009年の4月に東京事務所が設立された。

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−日本で人権問題の重要性を訴えていて、壁を感じることはありますか?

人権問題は基本的な問題にもかかわらず、重視されていない日本の社会には疑問を感じる。人権問題が重視されるためには、イデオロギーが柱となった人権問題ではなく、人権そのものが柱であると考えるべき。東京事務所が設立して、もうすぐ二年だが、この点では少しずつ前進していると思う。この間、頻繁に日本政府や国会議員、そしてメディアの方とも話しているが、徐々に反応も良くなってきている。私は人権問題に関して日本には、まだ大きなポテンシャルがあると信じている。

−北朝鮮の人権問題に日本としてどう関わるべきと思いますか?

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仮に日本としてメリットがなくても、人権が侵害されている限り改善を要求することは日本としての責務だ。一方、北朝鮮には多くの日本からの帰国者や日本人妻がいる。また拉致被害者もいる。彼らも日本を構成する市民であり、彼らの生命と財産を守るのは日本の国益そのものである。日本人にとっても、自分たちの同胞やそれに準ずる人たちには関心を払うべきだ。日本における北朝鮮問題は単なるヒューマニティだけでなく自分たちの社会の問題である。

北朝鮮は安保問題の観点から見ても大きな脅威となっているが、北朝鮮という国家を見たとき、その背骨として人権侵害というシステムから成り立っていることを認識しなければならない。結局は、人権問題を無視して日本と北朝鮮が長期的に安定的な関係を構築するのは難しい。自分たちの社会を守るという国益と安保という二つの点からも北朝鮮の人権問題の解決に取り組むべきだ。

−1月24日、HRWは第21回年次報告書「世界人権年鑑=ワールドレポート2011」(649ページ)を発刊しました。貨幣改革(デノミネーション)以降の状況についてどう見ていますか?

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デノミ以後、北朝鮮の人々の食料に対するアクセスはより困難になった。タンス預金がなくなったのはもちろん、本来下がるべき物価は高騰し、一般庶民の生活に大打撃を与えている。食料へのアクセスが制限されているというのは、大きな人権侵害の一つだ。本当に大飢餓が起きて、みな飢え死にするのは人権侵害ではなく天災だ。デノミは北朝鮮当局が実施し、その間違った政策のために住民が食料にアクセスできていない。食料問題という点においても、北朝鮮は民衆の食料に対する権利を侵害している典型的な国だ。

この対策として国際社会が一丸となって食料支援をすべきだと思う。国際的な基準のしっかりとしたモニタリングが出来る食料援助だ。ただ、全ての国が同様にモニタリングを前提とした食糧支援を要求しなければならない。そうでないと北朝鮮は監視の緩い援助をする国に頼ってしまうだろう。全世界がモニタリングをつけた形での食料を要求するいい機会であるし、一般の人々に対しても必要な事だ。

−HRWは、グローバルに人権問題に取り組んでいますが、北朝鮮以外ではどのような取り組みを考えていますか?

北朝鮮も重要だが、もう一つのアジアの人権侵害大国のビルマ。そして、共産党独裁である中国、さらにはベトナムの人権問題にも取り組まなければならない。特に、中国はアジア、アフリカも含め人権侵害国家の資金源でもあり、政治的な後ろ盾にもなっている。国連に加盟している途上国をまとめ「G77プラスチャイナ」というグループをつくり、各国の人権問題が取り上げられる事をブロックするという悪い意味でのリーダーシップを発揮している。中国の外交問題は世界の人権問題の解決のために越えなければいけない大きな壁だ。

−最後に、今の北朝鮮の住民に対して国際社会はどう向き合うべきでしょうか?

北朝鮮はかつては強固な情報鎖国だったが、脱北者などの人材や携帯などを通じて、かつてとは比べものにならないぐらい情報へアクセスするようになった。それと同時に、北朝鮮民衆の意識も大きく変わっている。これを踏まえた上で、北朝鮮内部の人々の意識を変えるというテーマは今後の大きな課題だ。

英語に「change comes from within」という言葉がある。「変革は内部から起こる」。私たち外部の役割は、内部の人たちを支援することだ。「自分たちの情報を伝えたい」と願う内部の人と外部のNGO団体やジャーナリストがコンタクトを取り、その情報を外部社会へ広く伝える事は最も大切な支援だ。彼らのような「名も無き人」の背後には、公には口に出せなくても同じ思いを持ち変革を望んでいる人がどれだけいるのかは推して知るべしだ。それを国際社会は無視すべきではない。

変化への思いが込められたそのバトンを国際社会はしっかりと受け止め走り出さなければならない。