韓国統一省の統計によると、韓国に入国した脱北者の数がピークに達したのは2009年で、年間2914人に上った。その後は若干の増減がありながらも減少傾向をたどり、昨年1月から11月末に入国した人は1042人と、ピーク時の3分の1ほどとなった。

この数字はあくまでも韓国に入国した人の数であって、脱北者全体の数ではない。ただ、全体としても減少傾向にあることは間違いないようだ。北朝鮮経済が落ち着きを取り戻したことに加え、当局が昨年後半から、脱北に対してより一層厳しく取り締まるようになっているからだ。

北朝鮮当局は一時期、出稼ぎなどで食べていくための短期間の脱北に対しては、最も軽い場合には警告程度で済ませていた。しかし現在は、厳罰方針で臨んでいる。今年に入ってからはさらに取り締まりが強化され、もはや、脱北行為はほとんど見られなくなったと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

本来、冬は脱北の絶好のチャンスだ。国境を流れる川が凍り、渡りやすくなるからだ。ところが咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、この冬は脱北を試みる人の姿をほとんど見かけないという。その理由は、金正恩党委員長の下した次のような指示によるものだという。

「昨年までの脱北者はすべて許すが、これから脱北しようとする者は政治犯として厳罰に処す」

今まで、出稼ぎ目的などで脱北し摘発されれば、労働鍛錬隊や教化所などの刑務所に送られるのが一般的だった。暴言や暴力など人権侵害の温床だが、なんとか生きて帰ってくることは可能だった。しかし、政治犯が収容される管理所(収容所)にはその保証がない。

「先に脱北した家族が(北朝鮮に)残った家族に脱北を勧めても『政治犯として処罰されるかもしれない』という恐怖心から誰ひとりとして動こうとしない」(情報筋)

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、現地でも同様の方針が示された。処罰を恐れ脱北は減ったが、脱北者家族と韓国に住む脱北者は電話で連絡を取り合っている。脱北はできなくても、仕送りなしでは生きていけないからだ。

当局は昨年後半から、国境地帯における外国との通話に対する取り締まりを強化してきたが、それが緩くなったのかどうかは不明だ。

2月は旧正月に加えて光明星節(2月16日、金正日氏の生誕記念日)があり、3月には国会にあたる最高人民会議の代議員選挙が控えている。この間、当局は特別警備期間に入っており、期間中に下手なことをして摘発されれば、通常時より大ごとになる。それもあって、人々は息を潜めて事態の推移を見守っている状況だ。

実は、同様の厳罰方針は金正日総書記の時代にも下されていた。中国から強制送還されてきた脱北者に「過去の脱北は水に流すが、今後の脱北は許さない」との方針が示されたが、実際は放免されることはなく、皆が教化所(刑務所)送りとなったという。

そんなだまし討ちにあっても、脱北者は減るどころか、どんどん増えていった。餓死を免れるためには、命をかけて川を越えるしかなかったのだ。当時と比べて経済的に落ち着いた今、再び脱北者が増えるかどうかは未知数だ。

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