人民保安取締法第30条

「人民保安機関は旅行秩序、歩行秩序を乱す行為を取り締まる」

北朝鮮は世界でも類を見ないほど、国民の国内移動が厳しく制限されてきた。当局は1970年代初頭から、上記の人民保安取締法を拡大解釈する形で、移動の自由を著しく制限してきた。それがようやく大幅に緩和されたと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋によると、当局は、首都の平壌、前線地域(軍事境界線付近)、国境地域など特定地域を除くほとんどの地域に旅行証なしに移動を可能にする措置を取った。今後は公民証(身分証明証)さえあれば、上記を除く地域ならどこにでも事前の許可なく行けるようになった。

RFAは今年9月、金正恩党委員長の指示に基づき、国内移動制限が近々撤廃されるとの噂が北朝鮮国内で流れていると報じたが、噂通りになった形だ。

(参考記事:北朝鮮で「国内移動制限撤廃」のウワサ

なお、移動自由化の対象から外れる地域には、慈江道(チャガンド)も含まれている。中朝国境に面している上に軍需工場が集中する地域で、核兵器関連の施設もあると言われ、特権的地位を持った平壌市民ですら訪問には特別な許可が必要だ。

(参考記事:北朝鮮、北部山間地の統制強化へ「核兵器隠蔽」が目的か?

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の別の情報筋も、特定地域を除いた地域の移動が自由になったことを確認した。一方で特定地域への接近については統制がいっそう強化され、公的業務や個人的な用事でこれら地域に行く人にとっては非常に不便になったとのことだ。

ただ、新たな「自由」は施行されたばかりでもあり、人々は不安を拭いきれないようだ。

「国民は一般地域には公民証さえされば自由に移動できるようにする今回の措置を歓迎しているが、今後また情勢不安の変数が生じて、以前のように移動の自由を統制されるようになるかもしれず、不安は依然としてある」(情報筋)

今まで、居住地から市や郡の境をまたいで移動するには旅行証という国内用パスポートが必要だった。洞事務所(末端の行政機関)、勤め先の工場、企業所に旅行証発給申請書を出し、人民保安省(警察庁)2部で審査の上発行される流れだったが、手続きに3〜4日かかっていた。

また、特定地域に行くには手続きに1週間以上かかり、許可されないことも多かった。平壌に行くための旅行証は、護衛司令部が審査し、シリアルナンバーを管理するほど厳しく管理されてきた。

このような規制と許認可権は、カネを生み出す源泉となってきた。許可と引き換えにワイロが得られるからだ。市や郡の境界線上にある哨所(検問所)は、金のなる木だ。

例えば咸鏡北道の別の情報筋によると、中朝国境に面した穏城(オンソン)から、東海岸の大都市の清津(チョンジン)に向かう約170キロの区間には10ヶ所以上の哨所があり、通貨するごとにワイロを払わなければならなかった。これらは昨年12月に大幅に統廃合されている。

今回の国内移動制限の緩和で、哨所が撤廃されるわけではないだろうが、担当者は今までのように旅行証の所持などをネタにワイロをせびることは難しくなるだろう。

また、哨所の担当者にあらかじめワイロを支払っておき、比較的自由に行き来できるサービスを提供していたタクシーのドライバーや、手数料と引き換えに哨所を問題なく通れるよう便宜を図るブローカーなども、商売上がったりになるかもしれない。

(参考記事:北朝鮮の「検問所」が「料金所」に変身した裏事情

    関連記事