米バージニア大学生のオットー・ワームビアさん(当時22)が北朝鮮で約1年半にわたり拘束され、昨年6月に昏睡状態で解放された直後に死亡した問題を巡る民事訴訟で、ワームビアさんの両親ら6人の証人が12月19日にワシントンDCの連邦地裁に出廷することが決まった。

両親は、北朝鮮による拷問がワームビアさんの死因であるとして、同国政府を相手取り損害賠償請求を提起。先月10日には、北朝鮮から帰ってきたワームビアさんの歯列が大きく変形しており、外部から物理的な力が加えられた可能性があるとする主治医の陳述書を、同地裁に提出している。確かに陳述書に添付された写真を見ると、ワームビアさんの下の歯列の中央の2本の歯が、不自然に口の内側に移動しているのがわかる。

(参考記事:【写真】大きく変形したワームビアさんの歯列

拷問の前科アリ

この裁判でどのような判決が出されるかは、今後の米朝対話に影響を与える重要な問題だ。先の米中間選挙で、トランプ政権と対立する民主党が過半数を握っただけになおさらだ。北朝鮮は一貫して拷問を否定しているが、法廷で抗弁する手続きは踏んでおらず、地裁が同国に不利な結論を出す可能性は高い。

果たして、北朝鮮はワームビアさんに拷問を加えたのだろうか。米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)は先月26日、この問題を受け、北朝鮮が米国人を拘束した過去の事例が改めて注目されていると伝えている。

(参考記事:「性拷問」の証言も…北朝鮮は「外国人人質」に何をしているのか

VOAは北朝鮮が米国人に拷問を加えた代表的な例としては、1968年に拿捕された米海軍艦艇「プエブロ」号の乗組員への暴行を挙げている。乗組員の一部は拘束されていた11カ月間、継続的に暴行を受け、虚偽の自白を強制されたという。

その一方でVOAは、近年になって拘束された米国人からは、精神的な圧迫を別にすると、北朝鮮当局から拷問を受けたとの証言は聞かれないとも指摘。さらに、ワームビアさんの送還交渉に当たったジョセフ・ユン国務省対北政策特別代表(当時)が。北朝鮮側の医師からワームビアさんが有罪判決後24時間以内に病院に移送されたと説明を受けた事実を根拠に、「米国政府の助けを期待できないとの話を聞いたワームビアさんが、極端な選択をした可能性がある」とした米メディアの報道に言及している。

つまりは絶望したワームビアさんが自ら死を選ぼうとした可能性があるということだ。もしそうなら、ワームビアさんが横転するなどした際に口や顎のあたりをどこかにひどくぶつけ、歯列が変形してしまったということも考え得る。

しかしそれだと、ワームビアさんがボツリヌス菌に感染した云々と説明している北朝鮮側の主張と食い違ってしまう。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

謎は深まるばかりだが、民事訴訟でどのような判断が下されるか、要注目だ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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