北朝鮮の朝鮮人権協会は4日、国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が北朝鮮における女性への性暴力実態に関する報告書を発表したことに対し、「政治的謀略策動の一環」であると非難するスポークスマン談話を発表した。

HRWが先月31日に発表した報告書「理由もなく夜に涙が出る 北朝鮮での性暴力の実情」は、金正恩党委員長が政権を継承した2011年以降に脱北した54人と、脱北した北朝鮮の元公務員8人を対象にしたインタビューを元に作成されたものだ。

その中には、被害女性らの血のにじむような証言のほか、身近で起きた性犯罪の経過を知る第三者の証言などが数多く収められており、読むほどに「そこまで酷いのか」と愕然とさせられる。

(参考記事:被害女性たちの血のにじむ証言…報告書「理由もなく涙が出る」を読む

またそれだけに、女性らにとってこの残酷な体験を想起し、言葉にして語ることが、いかに苦しく勇気の要ることだったかを想像せずにはいられない。

そのような報告書に対し、冒頭の論評は、次のような言葉を浴びせて誹謗している。

「われわれを無鉄砲に敵視するのに慣れているHRWのようなえせ人権団体が発表した「報告書」は、祖国と人民に対して罪を犯し、自分を産んで育ててくれた父母と子息までためらわずに捨てて逃走した一握りの人間のくずが自分らの汚らわしい命を維持するためにやたらに提供するものをかき集めた天下にまたとない卑劣な謀略文書として、われわれはそれに対して論議する必要さえ感じない」

北朝鮮の口汚い表現は毎度のことだが、今回ばかりは、このような論評を出すことにより国家そのものが罪を犯していることを、彼らは知るべきだ。論評の発信者が人権協会となっていようとも、それが国家の統制を受けていることは説明するまでもない。

北朝鮮の法においても、性的暴力は犯罪とみなされている。また著しく不十分であっても、場合によっては捜査が行われ、加害者が処罰されてもいる。もちろん私たちは、加害者の多くが権力の側にいることも知っている。

(参考記事:北朝鮮女性、性的被害の生々しい証言「ひと月に5~6回も襲われた」

たとえば報告書によると、北朝鮮で大学教授だったキム・チョルグクさんは2014年、両江道で保安署(警察署)の幹部となった友人からこのような話を聞かされた。保安員(警察官)たちは性暴力の案件の取り調べで、加害者、被害者の話を聞くのは「ポルノを見るより楽しい」と考えているというのだ。

(参考記事:手錠をはめた女性の口にボロ布を詰め…金正恩「拷問部隊」の鬼畜行為

このような最低な実態を知っても、個々の性的暴力には個別の加害者がおり、国家そのものによる犯罪ではないことを私たちは認識している。しかし、北朝鮮は件の論評を出し、性的暴力の存在を否定し被害者を貶めることで、すべての性犯罪の共犯者に成り下がっているのだ。

今のところは、米国と韓国が北朝鮮の非核化を優先するため人権問題から故意に目をそらしているが、そんな状況が永遠に続くわけもない。金正恩党委員長はそのことをハッキリ認識し、罪の上塗りを止めるべきだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

>>連載「高英起の無慈悲な編集長日誌」一覧

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記