偽装脱北者の疑いをかけられ逮捕、起訴された男性に対して、韓国の裁判所が脱北者であることを認める判決を下したと韓国メディアが報じた。
「北韓離脱住民の保護及び定着支援に関する法律(北韓離脱住民法)」違反で起訴されていた脱北者Aさん(58歳)に対し、ソウル中央地方裁判所はこのほど無罪を言い渡した。
Aさんは、北朝鮮国籍の父と中国国籍の母との間で1960年に中国で生まれたが、1975年に北朝鮮に移住した。
中国には朝鮮半島にルーツを持つ少数民族・朝鮮族が多く住んでいるが、文化大革命当時に金日成主席が中国を教条主義、宗派主義と批判したことで、中国当局から激しい弾圧を受けた。特に吉林省延辺朝鮮族自治州では、多くの朝鮮族が北朝鮮特務(スパイ)として逮捕された。それを避け、多くの朝鮮族が北朝鮮への移住した。
2001年に脱北したAさんは、中国や東南アジアと転々としていたが、韓国に向かう決心をし、脱北ブローカーの助けを借りて中国のパスポートと韓国のビザを取得することにした。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面この過程で中国の戸籍に自分の名前が残っていることを知り、回復申請を行った上で中国のパスポートを取得、2007年に韓国に入国した。そして韓国政府から「北韓離脱住民」として認定を受け支援金を受け取った。
Aさんは翌年、北朝鮮に残してきた家族を脱北させるために中国に向かったが、中国の公安当局はAさんの韓国国籍取得の過程が釈然としないとして逮捕し、韓国政府にAさんが北朝鮮国籍者であったことを証明する資料の送付を要請した。ところが、韓国政府は、Aさんの北朝鮮にいた頃に撮った写真、公民証(身分証明証)などを保有しているのに、中国側に提出しなかった。
家族とともに韓国に帰国したAさんは、脱北者を偽り、定着金を搾取した容疑で検察に逮捕されてしまった。政府の支援も打ち切られた。残された家族が経済的苦境に立たされたことは言うまでもない。
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この事件を受けて、大韓弁護士協会の北韓離脱住民支援小委員会は弁護団を結成し、Aさんの法律支援に乗り出した。
検察は、Aさんは中国で生まれ、北朝鮮に移住、2001年に脱北後に中国国籍を回復した中国国籍者であるにもかかわらず、脱北者として身分を偽り、韓国国籍を取得し、定着金を不当に受け取ったと主張した。
これに対して裁判所は、Aさんに対して無罪の判決を言い渡した。その理由は次のようなものだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面中国は二重国籍を認めていないため、中国国籍を回復するには、北朝鮮国籍を放棄しなければならない。そのためには、北朝鮮の国籍法に基づき最高人民会議常任委員会に除籍請願を出し、許可を取り付けなければならないが、脱北者であるAさんがそのような手続きを踏むのは事実上不可能だ。そのため、Aさんが中国政府に正式に国籍回復申請をしても、認められる可能性はほぼない。
裁判所は同時に「国家情報院、統一省、外交省など関連機関は、Aさんが北朝鮮人であることを示す資料を中国側に提供できる十分な能力と責任があるのに、これを怠り、公安局の担当者の解釈どおりにAさんを中国国籍者と断定して捜査を依頼、保護決定を取り消した。それにより、韓国政府の一切の支援を受けられないまま家族を脱北させ帰国したのに、逮捕され捜査を受けることとなった」と韓国政府の怠慢を批判した。
裁判支援に関わった弁護士事務所の関係者は韓国の法律新聞に「今回の判決は北朝鮮、中国の二重国籍問題において、脱北者の認定範囲をより明確にする重要なきっかけとなった」と評価した。
国籍の問題で苦しむ脱北者は少なくない。その代表例が無国籍脱北2世だ。出稼ぎや人身売買で脱北した女性が、中国人男性と結婚するケースは少なくないが、その間に生まれた子どもの出生届は出されないことが多い。不法滞在の発覚を恐れてのことだ。
その後、家族で韓国に入国しても子どもは無国籍状態にあるため、脱北者として認められず政府の支援を一切受けられないでいる。
(参考記事:性的搾取の末に「要らなくなったら転売」…北朝鮮女性の悲劇)