北朝鮮では、都会を後にして山に入り、暮らしている人が少なからず存在する。1990年代後半に北朝鮮を襲った大飢饉「苦難の行軍」のころから、家を捨てて山に入り、畑を耕して暮らす人が現れた。

最近は、市場経済化の波に乗り遅れ貧しい暮らしを強いられる人や、当局から勤労動員、各種支援金の負担を強いられることを嫌った人々が、山に逃げ込むことが多い。

(参考記事:家を捨て、山の中で隠れ住む北朝鮮国民が増加

定住とまではいかなくとも、山に入って小屋を建て、猟、木の実やキノコ採り、炭焼きなどのために暮らす人もいれば、都会にある自宅から山奥に切り開いた畑まで通う人もいる。

(参考記事:国家にスイカ畑をむちゃくちゃにされた北朝鮮農民の怒り

一方、韓国ではMBNが毎週水曜日に放送しているテレビのリアリティ番組「俺は自然人だ」が人気だ。人里離れた山奥で暮らす人々をタレントが訪ねて、その暮らしの一端を覗く内容である。

食糧は自給自足が基本で、畑で取れた野菜で漬けたキムチ、手製の味噌、醤油、コチュジャンを食べて暮らしている。電気を全く使わずロウソクで明かりを取る人もいれば、ソーラーパネルを使って発電し、ラジオや携帯電話を使う人もいる。現金収入が必要になれば、村まで降りて農作業を手伝うといった具合だ。番組はさながら「山ごもりのススメ」と言ったところだろうか。

故郷を離れ都会に出て暮らしてきたが、ストレスフルな生活に嫌気が差し、子どものころの貧しくとも幸せだった時代に憧憬を抱く、韓国の中高年層に人気の番組だが、これが北朝鮮でも人気を博しているとのことだ。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると「最近、市場などで『俺は自然人だ』がコピーされたUSBメモリやSDカードを買い求める人が多い」(情報筋)とのことだが、人気の理由はもちろん、韓国とは違っている。

冒頭で述べたように、北朝鮮にも都会や社会から逃れたがっている人々がいる。世界で最も統制の強い国家と言われているだけに、「山ごもり」を夢見る人々の願望にも強いものがあるのだ。「俺は自然人だ」は、そんな人々の「山ごもりライフ」に役立つ番組として見られているということだ。

「自然の中でいかにすれば暮らして行けるか、ノウハウや技術を学べるところが良いという声が多い。番組で紹介される、山の中に小屋やテントを建てて暮らしている人々の様子を興味深く見ている。小屋はどうやって建てれば良いか、資材はどうやって確保するのか、何をどう使うのかなどを見て学ぼうとしている」(情報筋)

韓国の視聴者はノスタルジー、現実逃避として見ているが、北朝鮮の視聴者は実践的なものとして受け止めているのである。

1990年代から北朝鮮に流入し始めた韓流だが、北朝鮮当局は体制を危うくするとして取り締まりを続けてきた。今年も1月から厳しい取り締まりが行われ、首都平壌の人びとは処罰を恐れて韓流視聴を自粛するほどだという。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは… )

しかし、単に韓流というだけで飛びつく時代は過ぎ、世代ごとに人気番組が異なるほど、需要が多様化している。例えば、若者の間では韓国の音楽専門チャンネルMNetの番組が大人気だという。北朝鮮での韓流人気を逆手に取って、韓国で「北朝鮮で人気のあるK-POPベスト」という企画物のオムニバスCDが発売されるほどだ。

取り締まりの犠牲になる人が後を絶たないが、当局がどうあがいたところで、韓流に奪われた北朝鮮の人々の心を取り戻すことはできないだろう。